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レポート&インタビュー2020.3.31

旅するアーティスト-AIRと街-「山陰レジデンスレポート 移動と生活」|アーティスト:前谷開|

アーティストがみる風景とはどういうものだろう。移動の道すがら、一人静かに考える夜、見知らぬ誰かとの出会い、探し求める問いを深める時間。街ごとに、アーティストごとに、新しい「旅」が生まれていくのかもしれない。そんな「旅路」の拠点になるのがアーティスト・イン・レジデンスです。レジデンスのある風景を訪ねてアーティストが旅します。第1回はアーティストの前谷開さんです。



 

レシートのメモ

京都芸術センターの勝冶さんから、国内のアーティスト・イン・レジデンスを訪ねて記事にして欲しいという依頼を受けて、兵庫、鳥取、島根に行ってみることにした。いくつかあった行き先の候補の中から山陰地方を選んだのは、去年の夏に、自分が京都府北部の日本海に面した京丹後という地域でのレジデンスに参加していたこともあり、日本海側の地域に興味を惹かれていたからだ。だいたい田舎でたまに街があって、どこか寂しい雰囲気があるのが好きだ。京都から鳥取にかけての海岸は、山陰海岸ジオパークに指定されていて、日本海の形成に関わる地殻変動の痕跡を見ることができる。昨年の京丹後のレジデンスで始めた、風景を見る身体についての作品制作を継続したいという動機もあって、興味がありながら、まだ行ったことのなかった兵庫以西の山陰地方のリサーチも兼ねて、レジデンスを訪ねることにした。

3月3日、夕方に京都市を出発し、まずは鳥取に向かう。京都市から北に向かうものかと思っていたが、ナビに従って名神で大阪方面へ、中国道、鳥取自動車道を経て鳥取に向かった。鳥取市にある「Y Pub&Hostel TOTTORI」というゲストハウスに宿泊。ここでは京都造形芸大の後輩である中川薫さんが働いている。1階にレセプションとパブがあり、2階とに客室があるおしゃれなゲストハウス。ベッドはカプセルホテル形式。この日はチェックインしてすぐに寝てしまった。

3月4日、Yで朝食を食べて、とりあえず鳥取砂丘に向かう。砂丘に一番近い駐車場を通り過ぎ、少し遠い海岸沿いの駐車場に車を停めて、海岸沿いを歩いて鳥取砂丘へ向かう。日本海側の海岸では韓国や中国からの漂着物が多く見られる。めぼしいゴミがないか、チェックしながら歩く。

道路と砂

砂に埋まった小屋

砂丘海岸と漂着物

砂丘を歩き回っていたら時間が経ち、鹿野町にある「鳥の劇場」に向かう。夕方、鳥の劇場に到着し、制作の越後綾音さんに、小学校跡を利用した劇場施設を案内してもらう。「鳥の劇場」は劇場を運営する劇団でもあって、劇団員が所属し、作品を上演している。鳥の劇場の劇団員は他の仕事を持たず、鳥の劇場の活動のみ(鳥の劇場での上演や演劇祭を行う以外にも、国内外での公演、地域の学校での指導、ワークショップなどの活動がある)を行っているという事に驚いた。小学校の校舎内は衣装や舞台美術、機材などの倉庫、制作場所として活用されていた。体育館が劇場となっていて、天井がとても高い。ちょうど行われていた稽古を少し見学させていただき、劇場の外を少し歩く。劇場の周りにはお堀と城跡があった。鹿野町はかつて、亀井茲矩を城主とする城下町として栄え、現在もその面影を残している。

日本には劇場という場所を構えて活動する劇団が少なく、また、常に専属の俳優が所属している劇団も多くはない。地方で劇場を運営し続けている鳥の劇場へは、毎年多くの劇団が公演のために滞在し、若い劇団が鳥の劇場での研修を行うプログラムも行われている。劇場と地域との関わりについて話を聞いていくと、鳥の劇場のある鹿野町には昭和62年より、鹿野町民によって行なわれている「鹿野ふるさとミュージカル」があり、鹿野町の伝説などを題材にしたオリジナル作品を上演しているという。地域文化への意識や、新しいものへの寛容さのある土壌に、鳥の劇場も受け入れられているようだった。

越後綾音さんと松本智彦さん

Yに戻ると中川さんが働いていて、いろいろと鳥取のお勧めの情報を教えてくれた。
この日の夜は鳥取県立博物館の学芸員の赤井あずみさんと会う約束をしていて、しばらくすると赤井さんがYに到着した。赤井さんとは昨年、京都で一度お会いしていて、鳥取に取材に行くと伝えると、鳥取のアートプロジェクトや訪問先についても色々と情報をいただいた。赤井さんは、鳥取県立博物館で働きながら、「ホスピテイル・プロジェクト」というアートプロジェクトを運営している。さらにYのある「トウフビル」の3階には赤井さんの所有するバーがある。Yの二軒隣にある砂丘屋でイワシ料理を食べながら赤井さんの話をお聞きしてから、中川さんも一緒にオルタナティブスペース「ことめや」に移動してさらに話を聞いた。かつて鳥取県内で行われた地域活性化の取り組みとして、アーティスト・リゾート構想があった。鳥取県と県内のNPOが主体となってアーティスト・イン・レジデンスの取り組みを促進する「暮らしとアートとコノサキ計画」と「鳥取藝住祭」が行われ、それらがきっかけとなって、県内で複数のレジデンスが立ち上がったそうだ。鳥取藝住祭がなくなってからも、それらのレジデンスは各所で続けられているということだ。

イワシ

赤井あずみさんと中川薫さん

朝食

3月5日、Yで朝食を食べてチェックアウトし、歩いてすぐの「鳥取民藝美術館」へ。お昼に再び、赤井さんにお会いし、「ホスピテイル・プロジェクト」を案内していただいた。ホスピテイル・プロジェクトは、鳥取市の中心街にある、旧横田医院の建物を拠点としている。円形の建築が特徴的。建物の中も円形なので、部屋は切り分けられたバウムクーヘンのような形をしている。鳥取大学との共同プロジェクトとして運営されていて、アーティストやキュレーターを招聘し、レジデンスプログラム、展覧会、パフォーマンス、レクチャー、ワークショップなどが行なわれている他に、庭造りのプロジェクトや、読まなくなった本を地域の人から集めてつくられた「すみおれ図書室」、家庭に眠る8ミリフィルムの収集、上映を行う「8mmフィルム・アーカイヴ・プロジェクト」などのプログラムを行っている。建物自体はほとんどリノベーションされておらず、病院として使われていた当時のまま、医療機器が残っている部屋もあった。元病院という独特の雰囲気があって、レジデンスや展覧会を企画する時には、場所の力に負けないアーティストを選んで招聘しているということだった。

ホスピテイル・プロジェクト

ホスピテイル・プロジェクト

赤井さんと別れて、鳥取民藝美術館の並びにある、匠割烹でハヤシライスを食べて、倉吉市の「明倫AIR」へ向かう。旧明倫小学校円形校舎の保存運動をきっかけに、校舎の活用方法として2010年より始められたアーティスト・イン・レジデンスが「明倫AIR」の始まりということだ。使われていない地域の建物を活用し、明倫地区内で拠点を移しながら運営されているようだ。(円形校舎は耐震補強と改修を経て、現在は「円形劇場 くらよしフィギアミュージアム」として活用されている)明倫AIRの招聘アーティストである久保田沙耶さんに、彼女の作品の「コレデ堂」にてお会いすることになった。「コレデ堂」は久保田さんのアトリエでもあり、お堂のような雰囲気がある。ガラスに描かれた絵が何枚も置かれていて、それらの絵を言い値で売っているという。好きな金額を封筒に入れて渡すと、好きな作品と交換してもられる。久保田さんは2017年に招聘されてから、5年間連続して明倫AIRに招聘され、リサーチと作品制作を行っている。同じアーティストを何年も続けて招聘するということも変わっているけれど、明倫AIRには現在、ディレクターはおらず、町の人が実行委員となって運営している。アーティストが滞在し、作品を制作するだけでなく、それによって町に新たな動きが生まれることが、より重要だということだ。久保田さんがリサーチしている版画家、長谷川富三郎は、倉吉市で小学校教諭として勤務する傍ら、鳥取民藝美術館を作った民芸運動家、吉田璋也との出会いから民藝運動に参加し、柳宗悦、河井寛次郎、棟方志功など多くの民藝の作家と関わりながら作品制作を行い、物と心の相関関係を追求した教育者としての側面もあった。長谷川富三郎の作品は倉吉市内の家庭や店舗に多く飾られていて、郷土の作家として親しまれている。長谷川が作品を言い値で売っていたことがあるというエピソードに倣って、久保田さんはコレデ堂で言い値での作品販売を行い、作品を見せるだけでなく、販売することを通じて、価値について立ち止まって考えてみることを促している。アーティストが地域と関わる方法は様々だが、息の長いプロジェクトを行う久保田さんのあり方と、明倫AIRの相性はとても良いように感じた。5年間の間に何が起こっていくのか、今後の動向の気になるプロジェクトだった。

久保田さんと明倫AIR運営委員の方々

この日は東郷池という汽水湖のすぐ近くにあるゲストハウス「たみ」に宿泊。たみは鳥取市のYの姉妹店で、先にできたのはたみの方。元旅館の木造二階建ての建物にカフェとゲストハウスを併設している。明倫AIRの運営委員の里田晴穂さんから連絡をいただき、会うことになった。今回の旅でまだ一度も温泉に入れていなかったため、初対面の里田さんに一緒に温泉に行ってもらって話をする。たみでオススメされた寿湯は、人一人ほどの幅しかない細い路地を抜けた先にあった。入浴料200円、髪を洗う場合は追加で50円を払うシステム。温泉が流れ出続ける蛇口にびっしりとついた結晶が年季を感じさせる。湯船の温度は熱すぎてなかなか浸かることができないほどで、水を入れながらなんとか肩まで浸かる。里田さんは市役所に勤められていて、明倫AIRの運営に関わりながら、明倫AIRや鳥取県内の様々なイベントの記録撮影をするカメラマンでもある。僕の作品にも興味を持っていただき、作品を説明したり、因州和紙にプリントした里田さんの写真を見せてもらったりした。倉吉博物館で行われていた展覧会『地方写真家が記録したとっとり-遠澤利寛&高木啓太郎-』を勧めていただいた。里田さんは特に高木啓太郎のだるまに魅力を感じるとのこと。高木啓太郎は、鳥取県内各地の風景写真を撮影した写真家であり、自身のシベリア抑留体験を追想し、テラコッタ製の「シベリアだるま」などの制作も行った。翌日に倉吉博物館を見に行くことにする。

3月6日、朝食を食べて、カフェで三宅航太郎さんと新井優希さんと話す。三宅さんは蛇谷りえさんと共同で「うかぶLLC」という会社を経営する元アーティスト。現在はデザイナーとしての仕事をしながら、たみとYを運営している。たみをやっていくうちに、アーティストとして活動するよりも、ゲストハウスをやった方が、自分たちのやりたいことができることに気がついたという。もともとは瀬戸内国際芸術祭の期間に行ったのゲストハウスプロジェクト「かじこ」を、長期間営業するための場所を探して鳥取の松崎に来た。東郷池の周りはとても穏やかな空気が流れていて、ここでならやっていけると感じたそうだ。たみを通じて松崎に移住する人も多いという。昼まで東郷池の周りを散歩して、近くにある本屋 汽水空港パン屋 ぱにーにで買い物をして、倉吉博物館に向かう。倉吉博物館は打吹公園の中にあり、植物が多く気持ちが良い。打吹山という名前がなぜかとても気に入った。『地方写真家が記録したとっとり―遠澤利寛&高木啓太郎―』を鑑賞。主に昭和20年代から40年代の鳥取風景を撮影した写真や鳥取におけるソーシャル・ツーリズムの資料など。常設展では倉吉にゆかりの民藝の作家が紹介されていた。

たみ、自撮り

東郷池とローソン

木と家

倉吉からさらに西へ、大山に向かう。中国地方の最高峰である大山の麓では「イトナミダイセン藝術祭」が毎年行われている。アートスペース兼レジデンスハウスである「妻木ハウス」にて、ディレクターの大下志穂さんにお話を聞く。大下さん自身もアニメーション作家であり、鳥取にUターンして2013年から「大山アニメーションプロジェクト」を始め、2017年からはアニメーション、ダンス、インスタレーション、音楽、食などの様々な作品が集まる「イトナミダイセン藝術祭」となったそうだ。近年は、国内外からのレジデンスアーティストに加えて、地元に住むアーティストや、普段はアーティストを名乗ることのない人も参加するようになり、イトナミダイセンという名前の通り、藝術祭のなかで、日々の営みとアートとの境界が薄れていっているということ。イトナミダイセンのレジデンスには、大下さんが気になったアーティストを招聘しているということだが、地元の作家たちの作品に驚かされることも多いという。

大下志穂さん

夕暮れの大山町

大下さんから、米子で行われているレジデンス「AIR475」の来間さんをご紹介いただいて、翌日にお会いすることになった。この時点で島根のレジデンス施設の情報は得られなかったが、どうせなら出雲大社に行っておきたいと思い、出雲へ向かう。出雲ゲストハウスいとあんに到着。荷物を置いて出雲駅前温泉らんぷの湯へ。らんぷの照明に照らされるいい雰囲気の温泉。

3月7日、朝から出雲大社へ参拝。古代出雲歴史博物館は改修工事の為、休館中。稲佐の浜に寄って、日御碕へ。コロナウィスルの影響で、石造りの灯台としては、日本一の高さを誇る日御碕灯台へは登れず。松並み木のある遊歩道を散歩する。柱状節理の岩を観察し、うみねこの繁殖地として有名な経島を眺めてから、米子に向かう。島根には半日しか滞在できず、島根半島には猪目洞窟や宍道湖、中海など、気になる場所が多くあった。また行きたいと思う。

出雲大社参道

稲佐の浜

日御碕灯台と松並木

柱状節理の岩

昼過ぎに米子に到着し、山陰の名旅館 東光園を一目見てから「AIR475」の来間直樹さんと高増佳子さんに会う。来間さんと高増さんは建築家であり、AIR475の事務局を運営している。来間さんは独立する前に、東光園を設計した菊竹清訓の事務所で働いていたそうだ。元メガネ屋だった空き店舗をリニューアルしたプロジェクトスペース「community lab.野波屋」でお話を聞いた。山陰随一の商業都市として発展した米子は、鳥取市と同程度の規模の都市だ。米子市美術館があり、AIR475と連携した企画も行なわれている。AIR475の始まる以前、2004年から、米子市在住の建築家たちによって結成された「米子建築塾」の取り組みがあり、米子の住環境や建築文化、そこで暮らす人々の生活文化の向上と発展に向けての活動があった。その延長として2013年「暮らしとアートとコノサキ計画」の中で、米子建築塾が中心となって始められたアーティスト・イン・レジデンスが「AIR475」だそうだ。建築の専門家たちによる、米子の街を良くするための活動からの広がりによってレジデンスが始まってたということだ。2年連続して同じキュレーターとアーティストが米子に滞在し、中でもカナダのバクーバーを拠点とするアーティストを多く招聘し、米子からバンクーバーに移民した日本人のストーリーや、中海という湖に浮かぶ無人島に、かつて存在した幻の料亭についてリサーチするアーティストなどが滞在してきた。近年はAIR475が独自にアーティストを選んでレジデンスを運営する方法をとっている。現在は、2024年に予定されている「鳥取県立美術館」(倉吉市)の開館と同時期に、米子で芸術祭を行うことを構想しているということ。

来間直樹さんと高増佳子さん

但馬漁火ライン、車

但馬漁火ライン、消波ブロック

最後の訪問先のレジデンスである、兵庫県豊岡市にある「城崎国際アートセンター」へ向かう。15時に米子を出発し、18時半から行われる、青木尚哉グループワークプロジェクト2019『LANDSCAPE』の試演会にギリギリで到着(コロナウィルスの影響で、試演会は関係者の鑑賞のみで行われた)。地理的な感覚を用いて身体を図る、という青木尚哉グループワークプロジェクトの上演は、身体を地理的な、ある地形のように扱い、風景を作っているということなのかと解釈し、自分自身の作品制作とも関連するようで、とても興味深く鑑賞した。試演会の後、プログラム・ディレクターの吉田雄一郎さんにセンターの中を案内してもらう。今回の旅で訪れた場所の中では最も立派な建物のアートセンターで、綺麗さにとても驚いた。「城崎国際アートセンター(KIAC)」は旧・城崎大会議館をリニューアルし、舞台芸術のためのレジデンスとして、2014年にオープンした。ホールと6つのスタジオがあり、1階のエントランスホールは一般に開放されていて誰でも入ることができる。滞在アーティストの宿泊場所や、キッチンなども同じ建物の中にあり、寝室から数十秒で稽古場に移動できるのが本当にすごい。しかも滞在するアーティストは、城崎温泉にある七つの外湯に、地域の住民と同じ110円で入ることができる。城崎国際アートセンターのある城崎は、1300年の歴史を持つ温泉街であり、かつては多くの文人墨客が城崎温泉に逗留し、多くの文学作品が生まれた土地。豊岡市には2021年4月、演劇を専門的に学ぶことのできる「国際観光芸術専門職大学(仮称)」の開校が予定されている。今後ますます舞台芸術の街として注目を集める場所になっていくだろう。

この日はアートセンターから一番近い温泉 鴻の湯に行き、旅館 錦水の別館、街のねどこ kinsuiに宿泊。素泊まりの宿だが、外湯めぐりの無料入浴券が付いていてとても良い。

3月8日、洞窟風呂のある一の湯に行き、城崎文芸館にて城崎温泉の歴史についての展示と、「本と温泉」についての企画展を鑑賞。「本と温泉」は、2013年の志賀直哉来湯100年を機に、次なる100年の温泉地文学を送り出すべく、城崎温泉旅館経営研究会が立ち上げた出版レーベル。城崎温泉でしか買えない本を出版しているという。館内の読書スペースで、志賀直哉の「城の崎にて」を読了。

予定していた行程はこの城崎までだったが、佐々木友輔 監督作品「映画愛の現在 第1部 / 壁の向こうで」の上映を見るため、再び鳥取に向かう。上映開始に間に合わず、20分ほど遅れて会場であるパレットとっとり市民交流ホールに到着。鳥取市には映画館が一つしかなく、鳥取県内をみても映画館は3つしかない。そんな鳥取で、50年にわたって映画の自主上映を行なっている清水増夫さんをはじめ、鳥取で映画に関わる活動をする人にインタビューを行ったドキュメンタリー映画を鑑賞。佐々木友輔さんは、2016年から鳥取大学の講師として関東から移住した映像作家だ。「映画愛の現在」は佐々木さんにとって、移住後、はじめて鳥取で撮影した作品ということで、このリサーチ旅の最後に見ておくのにふさわしい映画だった。

上映終了後、佐々木さんと、上映に関わっていた、うかぶLLCの蛇谷りえさん、鳥取大学の木野彩子さんにお話を聞いた。映像作家であり、映画についての作品論や作家論を書いてきた佐々木さんは、鳥取に映画館があまりないということや、大学講師としての業務に追われて、数年間、作品制作を行うことができなかったという。今回の映画の発端は、「銀河鉄道の夜」を題材にした音楽劇、ワークショップなどを行う「鳥取銀河鉄道祭」を企画していた木野さんから「鳥取の豊かさを知るための映像リサーチ」を提案されたのがきっかけだった。佐々木さんと木野さんは、鳥取大学の地域学部附属芸術文化センターで働いている。インタビューする人に焦点を当てた映像作品は、これまでの佐々木さんの作風とは異なっているのだという。それまでの”映画とは何か”から、”映画はどこにあるのか。どこに映画を見に行くのか”へ新たな問いを立てる必要があった。移動と環境の変化に伴って、その場所場所で可能な表現方法があり、それがすぐさま切り替えられる場合ばかりではないだろう。「映画愛の現在」にはまだ編集中の第2部、第3部がある。公開が楽しみだ。

浦富海岸

浦富海岸

今回、山陰地方で訪問したアーティスト・イン・レジデンスの中で、毎年、アーティストに向けたオープンコールがあり、芸術に特化した滞在制作のための場所というのは城崎国際アートセンターのみであった。もはや僕が紹介するまでもないほど有名だし、実際にとても良いレジデンス施設だと思った。なんとか上演作品を作ることにして応募したいと思うほどに。

鳥取のレジデンスを運営する人たちとの出会いは、アーティストとして活動するための視野を広げてくれた。そもそもセンターと呼べるような安定した拠点がある場所ばかりではなく、レジデンスに滞在するアーティストは地域と関わり、自ら活動の拠点を作っている場合もあった。レジデンスを運営する地域の人たちは、アーティストが作品制作を行い、成果を発表するだけでなく、アーティストの活動をきっかけとして、人と街に動きが生まれることを望み、そのために活動している。アーティストは時間をかけて、土地や人との関わりや、役割を創造していき、そのような環境に対応するアーティストがその場所を訪れている。都会に比べたら美術に関わる人もずっと少なく、だからこそ端から端まで全員繋がってるような風通しの良さも感じられた。ここからレジデンスに応募できます!みたいな情報はほとんど得られていないけれど、訪ねていけば何かが起こる場合もあると思う。鳥取にも島根にも、見るべきものや滞在したい場所は、本当にたくさんあって、今回の5日間のリサーチでは時間が少なすぎた。横目に見ながら通り過ぎた、行ってみたかった場所に行くために、早くまた旅に出たいと思っている。

浦富海岸、自撮り

 





 

前谷 開(まえたに かい)
1988年愛媛県生まれ。京都在住。2013 年 京都造形芸術大学大学院 芸術研究科表現専攻修了。自身の行為を変換し、確認するための方法として主に写真を使った作品制作を行う。2017年写真を扱うアーティストグループ「Homesick Studio」 を結成し東山 アーティスツ・プレイスメントサービス[HAPS]が運営するHAPS スタジオを使用。2018年記録にまつわる作業集団「ARCHIVES PAY」に加入。2019年より、滋賀県大津市にあるシェアスタジオ「山中suplex」に居住。 https://www.kaimaetani.com/