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レポート&インタビュー2020.4.15

AIRと私 07:アーティストインレジデンスで得られる、作家活動の醍醐味

京都芸術センターとA4 Art Museum(中国・成都市)との連携事業で、2017年に成都市に2ヶ月間滞在したハヤシヤスヒコさんによる滞在レポートです。

 

展示室の地面に900角のグリッドが打たれ、ベニヤ板のパネルが並べられていく。

大規模な展示空間と素材を使用する僕の作品制作スタイルから、数ヶ月の滞在制作によって作品を制作し発表するということが当たり前のようになっている。日本国内の他に、世界10数ヶ国で1ヶ月から3ヶ月の滞在制作を経験している。ほとんどが個展やグループ展に参加するための滞在制作なのだが、そのいくつかの中にはその土地のリサーチに基づき滞在制作をするアーティストインレジデンスも含まれている。2007年国際芸術センター青森、2017年に参加したA4 Art Museumでのアーティスト・イン・レジデンスもその一つである。

成都の庶民的なレストランにある椅子をリサーチ

世界共通の既製品を素材に使うユニバーサルな制作を心がけている僕が、成都でどのように作品を制作してきたかをまず簡単にまとめてみたいと思う。
僕の滞在制作で、最初に行うのは展示場所の下見と使用素材のリサーチである。作品のシリーズで使用素材は大きく変わるが、キュレーターや主催者から作品のシリーズの要望がある場合、その作品に使用する素材を現地で調達できるのかを調べる必要がある。中国にはホームセンターは無いので、今回のメイン素材である塩ビパイプ、ベニヤ板、玩具などを現地の職人が利用する専門店を渡り歩いて探すことになる。

システム確認のために組み合わされた塩ビパイプ

塩ビパイプの直径は世界各国共通規格だが、色には違いがある。ベニヤ板も世界共通のサイズではあるが、合板に使用される木の材質は国々で特徴が出るところだ。これらの素材は、ユニバーサルな規格で作られる一方で、細部は異なってくるのである。これは、ユニバーサルな規格であるがゆえに場所を問わず同シリーズを国外でも展開することが可能であり、またその国々によっての特徴がでるということでもある。

そして僕にとって制作と同等以上に重要なのが、制作アシスタントの確保である。巨大な展示空間に大量の既製品を配置する僕の制作スタイルゆえに、数名のアシスタントと一緒に制作作業をすることが多くなる。緻密な同一作業を長期間続けなければならないので、それに適した性格が重要になってくる。欧米の美術館では専属のインストーラーがいることは珍しくはないが、アジア諸国で何も言わずアシスタントを揃えてもらうと、現地の工事現場で働くおじさん達が来るということはこれまでの経験であったので、条件を工夫して提示した。また、日本からもアシスタントを連れて行くことも多く、今回は当時京都在住の器用な中国からの留学生、コケンリョウにお願いすることにした。
成都でのアシスタント探しは僕のわがままな条件のために難航したようだが、結局ボランティアで非常にスキルの高い人たちが来てくれることになった。成都で有名な家具デザイナーの王さんと、インテリアデザイナーの李さんである。どういう経緯で彼らが僕のアシスタントをしてくれることになったのかは今でも謎だが、彼らが日本の文化好きであったことが大きな理由であったかもしれない。

《The PLAY: SPACE DRAWING》

僕の作品制作のための作業は期間中am9:00-pm5:00の間でほとんど休みなく続いたにもかかわらず、毎日二人が交代でアシスタントしてくれただけでなく、毎晩僕とコケンリョウを成都のご当地グルメに誘ってくれた。成都は中国の中でも豊かな食文化で有名なところだが、彼らはその中でもグルメな人達だった。数少ない休日にも成都の郊外に車で連れていってくれたりもした。

初めての休みに王さんと李さん、その友人たちが成都の郊外へ連れ
て行ってくれた。

王さんはその当時、彼の家具のショールーム兼事務所のリノベーションを計画しており、彼はその内装のデザインについての僕のアドバイスが欲しかったので、制作作業終了後に、成都市内の王さんのスペースに行き内装の打ち合わせやアイデア出しをしたこともあった。
このような交流を経て、王さんは結局僕の小作品とコケンリョウの写真作品を購入し、ショールームに展示してくれている。
彼らとは今もやり取りを継続しているが、こういう出会いがあるのもアーティストインレジデンスの魅力であると思う。
ところで、2007年国際芸術センター青森での滞在制作が僕の初めてのレジデンスだった。英語を全く話すことができなかったが、毎日車で通っていた温泉がきっかけになって、ラトビアからきた彫刻家のアイガルス・ビクシェと友達になり、彼は僕の英会話の先生にもなった。2年後にはリトアニアで彼と再会し、2011年にはラトビアの首都リガの噴水を温泉に変容させるプロジェクトを、その後も日本やマニラで展覧会を企画したりしている。

王さんの家に食事に招待された時に撮影した記念写真。伊可さんも
便乗している。

2017年の成都でのレジデンスでも、王さん、李さんとの出会いだけではなく、同時期に滞在していたパフォーマンスアーティストの伊可さんとも2018年から2019年にかけて京都で何かプロジェクトを企てる提案が絶えず起こった。
2016年から京都市東山区に自身のスペース「青春画廊」をオープンし、自分の作品を制作発表するだけではなく、他の作家の展覧会を企画・展示することも増えてきている。作家としての発表経験と比例して多くの人たちと出会い、一緒にプロジェクトを立ち上げていくことに可能性を感じ始めている。
こうして、人と人が出会ったあとに巻き起こる「事」が、作家活動の醍醐味であるのかもしれないと考えている。

 




参加プログラム:京都芸術センターアーティスト・イン・レジデンスプログラム2017/Exchange:A4 Art Museum
滞在期間:2017年7月6日~8月13日
滞在期間:A4 Art Museum(中国・成都市)



 

パラモデル・ハヤシヤスヒコ [ paramodel yasuhiko hayashi ]
デザイナーを経て、2001年京都市立芸術大学美術学部構想設計専攻卒業。同年より中野祐介と作品制作発表を開始し2003年よりパラモデルと名乗る。
東大阪の町工場で生まれ育ったという背景をもち、大量生産された工業製品の特にユニット性のあるパーツを用いて、1人又は不特定多数の人々と遊ぶことによって、サイトスペシフィックな拡張性のあるインスタレーションから絵画、彫刻、写真、映像など様々な方法で、美術における空間表現の可能性を探る作品を制作する。