全ての記事を表示


Article

アーティスト・イン・レジデンスの現在 12
AIR 3331──日本からアジアへ、グローバルへ、そしてローカル・ネットワークへ


太田エマ(3331 Arts Chiyoda)

アートの取り組みにおける新しいモデルを目指して

東京・秋葉原に拠点を置くアーツ千代田3331 (3331 Arts Chiyoda)は、2010年に誕生した独立系のイニシアティヴであり、その目的は、既存のギャラリーやミュージアムの枠を超えて、市民や地域と芸術的表現の可能性をこれまでにないかたちで結びつけるような、新しいアート活動モデルを支援しようというものです。3331は古い学校の校舎に拠点を置き、クリエイティヴな活動に対して独自のアプローチをとっています。この施設は4つのフロアで構成され、展示スペースやワークショップ施設、会議室、芸術団体の事務所、専用ギャラリー、カフェ、ラウンジ、屋上スペース、スポーツ設備を提供しています。このユニークな取り組みは、あらゆる世代のさまざまな職業と関心を持つ人々がアートの多様な分野に参加できるような、開かれたものになっています。また、障害を持つ人や子どもたち、地域住民、学生、専門家、アートに関心を持つ人など、すべての人が楽しめるように、3331は多様なプログラムを提供しています。

アーツ千代田3331の外観


3331のメインギャラリーと藤浩志の作品

アジアのアート・ハブ

しかし、3331のヴィジョンはこれに留まりません。3331は、東京のアート・ハブであるだけでなく、日本、さらにアジアのアート・ハブでもあります。3331の目指すものは、アートの取り組みの新しい可能性を追求すべく、この地域におけるクリエイターと、アート集団や芸術関連団体のあいだに、コラボレーションおよび支援のネットワークを育成することです。アーツ千代田3331の火付け役でもある、アーティスト・イニシアティブ・コマンドNは、さまざまな地域におけるアートシーンを直接体験し、多くのアーティストや芸術団体との関係を構築していくなかで、これまでアジア地域のアート活動の現状について調査を行なってきました。3331はこのネットワークをベースに、この地域における政治的、経済的、文化的、そして社会的なコンテクストに対する関心を高め、アジアにおけるアートの豊かな多様性を、広く知らしめることを目指しています。

ネットワーク

このような目標を念頭に、3331はアーティストや芸術に携わる人々同志が簡単に繋がり合い、そして彼らがある特定の地域とも繋がることを可能にするような、プラットフォームの構築に取り組んでいます。この構想は、日本やアジア各都市に広がりつつあるアーティスト・イン・レジデンスのネットワークを通じて、実現されようとしています。3331は、日本やアジアのさまざまな地域でアーティストたちが容易に活動できるシステムの構築をめざし、まずは秋田、氷見、沖縄、韓国、台湾、シンガポールから取り組みを始めています。現在、日本の各地を訪れたいと考える、日本や海外のアーティスト向けのプラットフォームを構築中です。これにより、アーティストたちを地域のアートシーンと直接繋ぎ、滞在中の彼らの生産性を高め、さまざまな場所への移動をより簡単にすることができます。われわれは、拠点のある東京だけでなく、各地域のアートシーンへも情報を広め、日本と世界のアートプロジェクトや芸術団体のネットワーク構築に尽力するというビジョンを掲げており、この取り組みはその考えを特徴づけるものです。

滞在、リサーチ、制作、そして発表

3331が誇る取り組みは、オープン・レジデンス・プログラムを通じ、さまざまな分野のクリエイター達に対し、リサーチ、制作、展示を東京の中心で行なう可能性を通じて、東京の活気あるアートシーンに携わる新しい機会を提供している事です。3331は、初期のコンセプト段階から最終的な発表まで、すべてのプロジェクトの段階において、レジデンス・アーティストたちをサポートしています。彼らは、刺激的な環境での探究や制作の場を得るとともに、クリエイティブで文化的な交流の機会に多く恵まれます。またアーティストたちは、他のアーティストたちのスタジオやギャラリー、ワークショップスペースに囲まれ、3331のオープン・スタジオやワークショップ、トークイベントに訪れる人々と関わり合い、リサーチの成果や作品を専用のギャラリースペースで発表する機会が与えられます。

コミュニティ+コミュニケーション──世界から地域へ

2010年2月からこのプログラムを推進するなかで、3331はレジデンスの役割とその将来の可能性の定義、そして意義について考えてきました。特にわれわれが関心を寄せるのは、レジデンスがプラットフォームとしての役割をはたすことにより、クリエイターとより多くの市民の間で、実験や評論的対話、そしてコミュニティへの関与が行なわれ、かつスキルやアイディア、そして体験の共有がなされることです。アーティストたちが、自分の完成した作品を新しい地域へ展開することだけが、プログラムの意義ではありません。アーティストたちが関与することで、地域における洗練された感性が磨かれ、新たなリサーチや出会い、そして交流を通じ、個人レベルが恩恵を受けるだけでなく、街やコミュニティも豊かになるのです。
このプログラムを通じて、レジデンス・アーティストたちと、3331を取り巻く近隣のコミュニティとの関係が強化されます。その結果、アーティストたちは、東京のアートシーンでネットワークを構築できるだけでなく、地域の人々やコンテクストと非常に意義深い関わりを持つことによって、幅広いリソースやサポートを得ることができます。3331はアートと地域、両方のコミュニティと関わることを強く奨励しています。このような関わりは主に個人レベルで行なわれ、アーティストたちは非常に豊かな交流のプロセスを通じて、直接コミュニケーションに関与し、新しい関係を構築することができます。そして彼らは、このような異なる考え方や文化、コンテクストとの交流や出会いの重要性を認識するのです。

Air 3331のシンポジウム「アーティスト・イン・レジデンスの可能性」


Air 3331最終日のパーティでのアーティストたち

アーティスト・イン・レジデンス・プログラム

2010年の開設以来、3331は20人以上のアーティストを、アーティスト・イン・レジデンス・プログラムへ迎え入れました。このプログラムにおいて3331は、世界中のあらゆる地域からのアーティストを招へいし、3331を取り巻くコミュニティと直接交流するよう、働きかけてきました。このプログラムがこれまでに受け入れたアーティストとプロジェクト事例を、以下に紹介します。

●開発好明(2010年5月〜8月)
開発好明は2010年5月から8月の3カ月間、アーツ千代田3331に滞在したアーティストです。この期間の開発氏の活動は、特に秋葉原にインスピレーションを受けた作品の創造にとどまらず、展示に関連した一連のイベントやワークショップの開催へと広がりました。このワークショップは、幼児向けのワークショップシリーズで、参加者のアイディアを積極的に取り入れ、プログラムの終わりには参加者達の企画したイベントを実際に開催しました。最後のワークショップでは、参加した子どもたちが自ら、エイリアンのコスチュームのデザインと制作を行ない、3331のエイリアンツアーに参加しました。開発氏の滞在の成果を発表する展覧会では、木の生えた車輪付きの洗濯機を彼のガールフレンドに見立てて連れて歩く、秋葉原の路上を舞台にしたドキュメンタリー作品《ガールフレンド》を発表しました。さらに、ギャラリーを自由に飛び回る鳥とベランダの外で鳥かごに入れられた鳥という、二羽の鳥を対照的に表現した作品も発表されました。開発氏は3カ月間の滞在期間において、3331の活動に幅広く精力的に貢献する一方、地域を深く研究し、その経験を彼の滞在期間を締めくくる作品に融合させました。彼の成果は、レジデンス・プログラムのさらなる可能性を明確に示唆しています。

●AIR 3331(2011年2月〜3月)
2011年2月から3月にかけて、日本やアジア太平洋地域から9人のアーティストとキュレーターを初のAIR3331プログラムに招へいし、1カ月間の滞在を実現させました。この期間、各参加者はそれぞれの作品に取り組みつつワークショップを開催し、センターを訪れる地域住民や訪問者と対話を持ち、滞在期間の終わりにはメインギャラリーに一同に会して、展覧会を開催しました。なかでも見どころは、オーストラリア人アーティスト、アッシュ・キーティングが練成中学校に残されていたさまざまなスポーツ用具を使い3331の屋上に構築した《世界の終わりから逃げるための宇宙船》、シンガポール人アーティスト、ジェレミー・ヒャーによる地元の子どもたちとのインタラクティブ・ペインティング・ワークショップ、そして福岡出身のアーティスト宮田君平による2メートル超の跳び箱の跳躍という驚きのパフォーマンスでした。このように、さまざまな地域から若いアーティストたちが幅広く集まった結果、これらのアーティストたちと東京のアートシーンのあいだに親密な交流が実現されました。このようにして生まれた新しい機会を、3331はこれからも長く育てていきたいと考えています。

●サラー・ウォンとピーター・ウィリアムズ(2011年6月)
都市空間では、日常生活、歴史、政治、経済、法の執行、都市計画、そして公的な空間と私的な空間といった、さまざまなコンテクストが混在しています。一方で、公式・非公式の声が矛盾して混ざり合い、それぞれのコンテクストを表現しています。こういったさまざまな関連した力、または関連性のない力が、どのように一般の人々へ影響を与えたり、あるいは一般の人から影響を及ぼされたりしているのでしょうか。
カナダ人メディア・アーティストのサラー・ウォンとピーター・ウィリアムズはこの問題に取り組むため、多様な経験や意見を出来るだけ多く受け入れてきました。彼らは変化する瞬間は、可能性の瞬間でもあると考え、「失ったものは何か」「見つけたものは何か」と自らに問いかけることで、いまの瞬間の可能性について思いをはせる必要があると考えています。
この考え方は、危機後にある日本のコンテクストにもかなり通じるものです。滞在期間のプロジェクトで、サラー・ウォンとピーター・ウィリアムズは150人以上の日本人にインタヴューし、「失ったものは何ですか?」「見つけたものは何ですか?」という、非常にシンプルな問いを投げかけました。参加者たちはその答えについて、スケッチ画を描くよう求められました。最後の展覧会のテーマは、“Lost & Found in Tokyo”。150人の失ったものと見つけたものが、このプロジェクトの成果として発表されました。

開発好明のワークショップ「飛ばないタコ」


インタラクティブ・ペインティング・ワークショップを開くジェレミー・ヒャー


オリジナルの跳び箱作りに取り組むアーティスト宮田君平


サラー・ウォンとピーター・ウィリアムズの展覧会でのインスタレーション

将来の姿

今後、レジデンス・プログラムをどう発展させていくべきかを考えるうえで、タイ・チェンマイのコンピュンのレジデンス・プログラムは、アーティストと地域の関わり合いについて、非常に興味深い事例を示しています。このプログラムに参加するアーティストたちは、シンプルな素材を用いて、滞在施設と近隣地域に実際にスペース(ビル)や構造物を建設し、次の参加者がさらにそのうえに制作を重ねることで、自分の滞在した証を残すという手法を通じて、参加者達が永続的にレジデンスに貢献をする仕組みになっています。3331では実際に建設は行なわないものの、長期にわたりレジデンス・プログラムに参加するアーティストたちが、つねに進化し続ける発展の構成要素となり、コミュニティと街に影響を及ぼし続けるというアイディアに、われわれは感銘を受けました。アーティストたちが何を残せるのか、そして次のアーティストが将来へ向けてどのようにそのバトンを引き継いでいくのかを、彼らが一人ひとり考えることが重要なのです。

レジデンス施設の一室

[2011年8月]

3331 OPEN RESIDENCE:http://residence.3331.jp/
AIR_J>SEARCH>http://air-j.info/result/center_13101