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アーティスト・イン・レジデンスの現在 11
アーティスト・イン・レジデンスの世界ネットワーク「Res Artis」第12回総会報告


村田達彦(遊工房アートスペース 共同代表)

2010年10月、アーティスト・イン・レジデンスの世界ネットワークRes Artis★1の総会がカナダ・ケベック州のモントリオールで開催された。今回は、Res Artis総会の第12回目にあたり、10月6日(水)から10日(日)までの5日間にわたり、「The Americas: Independent Artistic Practices in the Era of Globalization」をテーマに、多様なAIR活動の紹介や議論、さらに、ラテンアメリカを含む米州大陸に焦点を当てたホットな話題が取り上げられた。
今回、Res Artisの総会を招へいしたのはRCAAQ(Regroupement des centres d’artistes autogeres du Quebec)で、ケベックに拠点を置くカナダ全土のアーティスト主導のアートスペース活動支援団体であるが、もともとカナダにはアーティスト・ランの団体が数多くあり、活発に活動を行なっており、同団体もそのひとつである。
開催地であるモントリオールは、トロントに次いでカナダ第2の都市で人口は約370万で、住民の3分の2がフランス語を第1言語としている。現在、日本でも公演を行なっているシルク・ドゥ・ソレイユの拠点もあり、文化的にはカナダをリードする都市として名高い。
また、会場は、Musee Juste pour Rire(英語で、the Just for Lughs Musuem)を中心として開催されたが、この会場も名前のとおり、世界で唯一の笑いとユーモアの博物館ということで、なかなかおもしろい選択であった。
前置きが長くなったが、総会は、Res Artis会長Mario Caroと本大会実行委員長Bastien Gilbert(RCAAQ代表)のもと、参加者同士の相互理解と活発な意見交換や交流が行なわれた。参加者は、世界20カ国、180名以上が集まった。その多くは北アメリカからで、次に多いのがヨーロッパからの参加者であった。アジアからは、日本から、トーキョーワンダーサイト遊工房アートスペースの2団体、韓国から3団体が参加したのみであった。
次回総会は、2012年、日本で開催することが決定した(事務局は、トーキョーワンダーサイト)ので、多くのアジアのAIR団体が参加することが期待される。

3日間の会議は基調講演、セッション、展示会、交流会、市内アートツアーなど連日充実したプログラム内容から構成され、最終日には、ケベック市のアートセンターを巡るサイト・ビジットが実施された。
大会初日は、Directory of Artist-run Centres of Quebec and Canadaの出版記念のタイミングとも重なったため、盛大に行なわれた。このハンドブックは、文字通りカナダにおけるアーティスト・ラン・センターの総覧で、ケベック州を中心とするカナダ全土161団体が収録されている。今回は第7版ということで、アーティスト・ラン・センターに関して充実したマニュアルとなっている。日本でも是非、このようなマニュアルがあると良い。

アーティスト・ラン・センターの設立・運用ハンドブック『Directory of Artist-run Centres of Quebec and Canada』(左)と「Res Artis」第12回総会プログラム(右)

基調講演は、メキシコ出身でバルセロナ大学の客員教授であるJoaquin Barriendos、地元モントリオールで活躍するアーティストのSylvie Cottonと、カナダの作家で詩人のNicole Brossardの3氏からで、Barriendosさんはアーティストの移動と社会現象に関して、植民地と非植民地のつながりの観点から捉えたユニークな考察を、Cottonさんはモントリオールで活躍するアーティストであり著述家としての視点でとらえたレジデンス活動の現実について話された。また、詩人であり小説家でもあるエッセイストのBrossardさんからは、Writer in Residenceの経験についての報告があった。
連日、朝から晩まで3から4件のセッションが開催され、大会全体で合計10件ものセッションがあり、AIR活動に関して多様な側面からの問題提起と対話が行なわれ、熱く、多彩な議論が展開された。
総会のほか、モントリオール現代美術館でのオープニング・レセプション、ケベックアーツ・カウンシル本部での早朝意見交換会、ボランティア・アーティストによる市内スタジオ・ツアーなどのプログラムも組まれた。総会の詳しい内容は、今大会のウェブサイトにも掲載されているので、ぜひご参照されたい。

次期総会(世界大会)は2012年に開催予定だが、日本開催がRes Aritisの理事会で承認された。国内のAIR活動の実態を広く海外の方に見てもらう絶好の機会となるとともに、日本で展開されている多彩なAIRの活動を世界にアピールし、さらに、アジア域内でのAIRのネットワークの本来的な繋がりの場にできたらいいと思う。
海外でのさまざまな形のAIR活動の存在や、国境を超えた国内外のアーティストの活動の実態を、より多くの日本のAIR担当者や実践者に知っていただき、さらに将来を担う若手のアーティストやアート・マネジャーたちが活動に積極的に参画をすることも期待される。そのためにも、Res Artisへの参加や、国内のAIRの活動がもっと認知される工夫がますます必要と感じている。
AIR事業の主人公はアーティストであり、そして、このAIR事業を通し、コミュニティ・アート、あるいは観光とアートとの組み合わせで地域活性化が図られることもひとつの施策であると考える。
もし、この記事を読んで下さった読者から、アイディアやフィードバックを頂戴できたら幸いである。

10月6日のstudio, Musee Juste pour Rireでの大会前夜祭。スピ-チは詩人のKay Barrett氏

★1──Res Artisの概要は下記のとおり。活動内容詳細、また入会手続きなど、ウェブサイトを参照のこと。www.resartis.org

Res Artisの歴史など
Res Artis, Worldwide Network of Artist Residenciesは、世界の50カ国以上の300以上のAIR実践団体などで構成される国際的ネットワーク。1993年ベルリンで設立され、AIRの実践を通し、芸術創造や文化政策への提言、アーティストの移動・創作の活性化を目指している。ほぼ隔年のペースで世界各地を持ち回りとして総会が開かれ、活動の向上、交流などを積極的に展開している。前回総会は2008年10月、アムステルダムで開催し、日本からは、7団体参加。ほかに、2004年はシドニー・メルボルン(南半球初)、1998年ニュデリー(アジア初)でも開催されている。

Res Artisの活動について
●AIR普及などの文化芸術活動戦略の策定とその実践
●ウェブサイト発信、News Letter発行
●AIR事業運営に関する支援プログラム(Res Support)実施
●活動会員間の相互理解と交流など(隔年の総会のほか、地域会合、他機関との共催など)
●活動資金:会費、助成金(EU機関、オランダ機関ほか)

活動・運営体制について
会員と理事会から構成されており、会員は、正会員、個人会員、準会員などからなり、AIRの事業規模により会費が設定されている。また、理事会は約10人の体制で、今回の総会で理事補充選挙があり、新たに4名が加わった。
●Mario Caro(米、会長)……Longhouse Education and Cultural Center
●Karol Fruhauf(スイス、財務担当)……Bridge Guard Art/Science Residence Centre
●Tatsuhiko Murata(日)……Youkobo Art Space
●Todd Lester(米)……freeDimensional
〈新任〉
●Yusaku Imamura(日)……Tokyo Wonder Site
●Leena Vutovesi(フィンランド)……Kulttuuri Kauppila Ii
●Naomi Beckwith(米)……Residency Unlimited
●Ika Sienkiewicz(ポーランド)
Nick Tsoutas(豪)は今総会で任期満了で退任、N’Gone Fall(仏、暫定事務局長)およびMarijke Jansen(蘭、副会長)は本人都合により退任。
なお、総会後の理事会にて、空席の副会長、事務局長には、Tatsuhiko Murata(日)とLeena Vutovesi(フィンランド)が各々就任した。

[2011年5月]