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アーティスト・イン・レジデンスの現在 10
セラミック・ワンダーランド──産地におけるアーティスト・イン・レジデンス「財団法人滋賀県立陶芸の森」


杉山道夫(財団法人滋賀県立陶芸の森 創作研修課長心得)

ご存じのように、アーティスト・イン・レジデンスというのは、日本固有のシステムではありません。欧米から入ってきた、芸術サポートの形態のひとつだと私は認識しています。ウィキペディアで検索するとアメリカで1900年ころには、レジデンスといえる活動があったと記されています。

アーティスト・イン・レジデンスの原型

私が勤める滋賀県立陶芸の森では、元々外国で生まれたアーティスト・イン・レジデンスを、やきものという限られた分野で実施してから18年ほどになります。計画を始めたのは、いまから20年ほど前ですが、当時は、「アーティスト・イン・レジデンス」と呼ばずに「滞在型共同工房」と表現していました。呼称については、紆余曲折がありましたが、現在では「アーティスト・イン・レジデンス」という言葉は定着した感があります。
しかし、やきもの産地という若干特殊な環境のなかでは、広義の意味でのアーティスト・イン・レジデンスは、じつは昭和のなかごろからあったのです。
ここ信楽では、昔は、けっこう京都から陶芸家が焼き屋(メーカー)に出入りしていたといいます。焼き屋さんで花器の原型をつくるかわりに窯を使って自分の仕事をさせてもらうということがあったらしい。焼き屋と陶芸家が、非常にゆるやかなシステムできちんと結びついていました。これは、やきものにおけるアーティスト・イン・レジデンスの原型といえるのではないでしょうか。

滋賀県立陶芸の森、外観

産地の強み

というわけで、陶芸の森の特徴を一言で言うと「信楽というやきものの産地にある」ということにつきます。景気に左右されることはあるにせよ、産地の特性として以下の特徴が挙げられます。

●原材料が豊富にあり、ほしい材料がすぐに手にはいる
●いろいろな種類の機材、道具がまわりにあり貸し借りができる
●若手からベテランまでさまざまな方向性を持った同業者がまわりにいる
●客観的評価ができる者がまわりにいる
●近くに販売網の拠点がある

そのような環境があるからこそ、陶芸の森には、国内外から多くの陶芸家が制作に来るのだろうと思います。その意味でわれわれと産地は切っても切り離せない関係にあります。

開館以来、約20年で48カ国から800名以上を受け入れ

陶芸の森創作研修館では、常時10人前後の国内外の陶芸家が制作しています。作風や国籍などの異なる方々との交流を深めてもらいたいと思っており、1992年の開館以来、48カ国から800名を越える陶芸家を受け入れ、この信楽の地で自由に作品を制作する機会を提供してきました。
このレジデンス事業は、大きく二つにわかれています。ひとつは、スタジオ・アーティストと呼ばれる、応募〜選考のプロセスを経て当館で滞在・制作される作家の方々です。
二つめは、ゲスト・アーティストで、これは、陶芸の森が招へいした作家の方々です。2008(平成20)年度から、ゲスト・アーティストの一部については、公募制を取り入れています。

陶芸の森創作研修館でのオープンスタジオ風景

最近は、若い方々にレジデンスの説明をするときに、アーティスト・イン・レジデンスの上手な使い方という説明をしています。

まず、第一にご自身がなにを陶芸の森でつくりたいのかを明確にしてください。そのうえで、制作にどの程度の時間と費用がかかるかを想定したうえで、応募していただくのが良いと思います。応募以前にわからないこと、相談したいことがあれば遠慮なくお問い合わせください。職員がご相談に応じます。
異なった環境で、使ったことのない設備機材を使って、普段と違うものをつくりたい。創作研修館には多くの国からさまざまな作風を持つ作家が来館しています。居ながらにして多くのことが学べます。窯にしても、多くの種類があります。「他の作家が焼いている窯にテストピースを入れる」などということもできると思います。土は、表現豊かな素材です。ご自身が普段は使っていない技法・材料をここでテストしておくのも良いかもしれません。
陶芸の森のアーティスト・イン・レジデンスの特徴は、参加者が滞在期間を選べることです。できるだけ、集中して密度の濃い制作をすることが上手な使い方だと考えます。

いずれにしても、多くの陶芸家たちと交流しながら、また、創作研修館の機材をフルに使いながら自分自身のレベルアップを図ってもらうということが、創作研修館のアーティスト・イン・レジデンス事業の基本的な考え方です。

AIRの活性化が、産地の活性化へ

タイトルにある〈セラミック・ワンダーランド〉というのは、やきものをつくる、見にくる、買いにくる方々にとって、産地というのはワンダーランドである、あるいは、ワンダーランドでなくてはならないということですが、アーティスト・イン・レジデンスも、当然ワンダーランドでなくてはならないと思います。
陶芸の森のアーティスト・イン・レジデンスが活性化することが、セラミック・ワンダーランドをつくることに繋がり、産地の活性化にもつながると考えています。

[2011年5月]

参考:AIR_J>SEARCH>滋賀県立陶芸の森 アーティスト・イン・レジデンス事業