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レジデンス連携2010.5.24

アーティスト・イン・レジデンスの現在 05:アーティスト・イン・レジデンスの世界ネットワーク Res Artis・近況報告 Res Artis: Worldwide Network of Artist Residencies

村田達彦(遊工房アートスペース)

アーティスト・イン・レジデンスの世界ネットワークRes Artisの総会が2008年10月、オランダ・アムステルダムで開催されました。以下にその概要を報告します。

なお、Res Artisの概要については、本稿の最後に参考として情報を記載しますので、そちらをご参照ください。

Res Artis第11回総会は、2008年10月9日(木曜日)から12日(日曜日)の4日間にわたり、「General Meeting & Coference Res Artis 2008 Amsterdam」 として、Smart Project Space他を会場として開催されました。総会は、共通プログラムと多彩なワークショップから構成されており、参加者は40カ国、120名以上、日本からは、4団体5名が参加しました。

今回は同スペースに共同事務所を設置しているTrans Artists(アーティストのための全世界のアーティスト・イン・レジデンスの情報センター)とRes Artisとの共催で、「Artists in Dialogue, Transforming Communities」を統一テーマに、世界各地で実施されている多様なAIR活動の紹介や議論に加えて、「新たなEUメンバーを迎えてのAIRの立ち上げや運営についての相談機能の充実(メントリング・プログラム)」など現実を見据えたホットな話題が取り上げられました。

そして、Maria Tuerling会長兼実行委員長のリーダーシップのもとにメンバー間の相互理解と活発な議論、そして交流がなされ、実りの多い成果が得られた総会となりました。

なお、次回の総会は、2010年秋、カナダのケベックで開催することに決定しました。

新運営体制

また、今回の総会では、Res Artisの組織体制が承認され、今後、次のような新体制で運営されることになりましたので、その概要を報告します。

まず、2007年に運営体制などの変革と役員改選がなされましたが、今回の総会で、会長、副会長の交代と、役員補充の選挙があり、次の通り決定しました。

会長:Mario Caro(米) Longhouse Education and Cultural Center
副会長:Marijke Jansen(蘭) Amsterdam Vluchtstad
事務局長:Sitabile Mlotswha★(蘭) Thamgidi Foundation
財務担当:Karol Fruhauf(スイス) Bridge Guard Art/Science Residence Centre
運営委員:
Nick Tsoutas(豪) Casula Power House A
rts Centre
Tatsuhiko Murata(日) Youkobo Art Space
Richard Perram(豪) Bathurst Regional Art Gallery
N’Gone Fall(仏、セネガル) Independent Curator
Geo Xinxin★
(中) Beijin Studio Center
Todd Lester★(米) freeDimensional

これまで運営委員と評議員はそれぞれ別のメンバーが就任していましたが、この2段階運営体制は2007年の役員改選時に解消されています。

なお、Maria Tuerlings会長ならびにRudolf Brunger副会長は任期満了で交代することとなり、Cristina King Miranda委員(メキシコ)は本人のご事情により退任されました。

★印の方が今回の総会で選ばれました。(3名)

総会の概要

さて、3日間の会議は基調講演、ワークショップ、展示会、交流会、市内アートツアーなど連日盛りだくさんのプログラム内容で、4日目の最終日には、活発にアート活動を行なっているアムステルダム郊外にあるArnhem市、そして、De Hoqe Veluwe国立公園のKroller Muller 美術館を訪ねる機会もありました。

基調講演は、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカの3大陸からそれぞれ1名が招かれ、いずれの方の講演も大変興味深い内容でした。まず、Goran Stefanovski氏は旧ユーゴスラビア(マケドニア)出身ですが、現在は英国カンタベリ在住ですが、脚本家でもあり劇作家でもあります。次の Nora Naranjo-Morse氏は、米先住民族出身で、米国コロラドに住んでおられますが、彫刻家として、作家として、さらに映画作家として活動されています。最後のKoulsy Lamko氏は、アフリカのチャド出身で、中央アフリカ在住、作家・著述家(詩、小説、劇)として俳優として実に多彩な顔を持っておられます。国際ネットワークに相応しく、多彩な活動と拝啓を持った方々でした。

次に、European Cultural Foundation(ECF)のALMOSTREALプログラムと、DOEN財団が行なっているArts Collaboratoryプログラムが事例紹介として発表されましたが、いずれもアートが社会変革に大きな力を持っているという信念のもとに運営されているということを改めて実感させられました。

また、世界のレジデンス事業の中から、優れたあるいはユニークな取り組みに「Res Artisアワード」が授与されていますが、2006年に受賞した「ダカール・ビエンナーレ2006」のその後のフォローアップについての報告と2009 年のアワードについては、欧州地中海地域若手アーストを対象に表彰してはどうかとの提案がなされました。

ワークショップについては、毎日4プログラム開催され、合計12プログラムという多彩で、かつ充実した内容でしたが、AIRに関する活動に関する多面的な問題提起が行なわれるとともに対話の場ともなりました。特に今回は、AIRをいかに立ち上げ、サステナブルに運営していくかなどのメントリング・プログラム(相談機能)が充実し、今後のネットワーク拡充のためにも重要なものであったと考えます。以下に、タイトルのみを参考のため列挙します。

ワークショップ
“Towards a new European Hospitality“
“Exploring Diversity,-how arts and culture organization address the transforming communities we live in”
“Online Tools in a Cultural Setting”
“Aims and challenges of artist mobility in connection to residencies in the Middle-East, Africa and Europe”
“Res Artis Mentoring Program”
“Artists’ residencies after Nifca”
“The RAIN-Network and beyond the role of residencies in contemporary art production”
“Mobility, Safe Haven and Refuge”
“Exclusivity and Diversity”
“Corporate Support of the Arts”
“Issues for West Africa”

また、会期中、アムステルダム市内にあるスタジオ5カ所のツアーも設けられ、活発な活動を見る機会もありました。

総会の最後に、韓国キョンギ道現代美術センターから、2009年秋のAIR開所式が行なわれ機会である 2009年秋、Res Artis地域会合を開催したいとの特別提案が出され、受理されました。

Res Artisからも、海外におけるさまざまな形のAIR活動の存在や、国境を超えた国内外のアーティストの活動の実態を、より多くの日本の若いアーティストが知って、これらの活動に積極的な参画をすることが期待されています。そのためにも、Res Artisにメンバーとして参加していくことや、日本国内での活動がもっと広く認知される工夫や広報が必要と感じています。

●参考サイト
Res Artis
Smart Project Space
Trans Artists

●Res Artisの概要

1.歴史
Res Artis、すなわち Worldwide Network of Artist Residenciesは、世界の50カ国以上の240以上のAIR実践団体などで構成される国際的ネットワークです。1993年ベルリンで設立され、 AIRの実践を通し、芸術創造や文化政策への提言、アーティストの移動・創作の活性化を目指しています。隔年のペースで世界各地を持ち回りとして総会が開かれ、活動の向上、交流などを積極的に展開しています。今回の第10回総会は、本部のあるオランダ・アムステルダムで開催されましたが、これまでにも欧州の多くの都市で開催されています。前回総会は2005年10月、ベルリンのMax Lieberman Hausなどを会場に開催され、42カ国、140名の参加者がありました(日本からは、7団体8名)。他に、1998年ニュデリー(アジア初)、2000 年サンタモニカ(北米)、2004年はシドニー・メルボルン(南半球初)でも開催されています。

2.活動内容
(1)AIR普及などの文化芸術活動戦略の策定とその実践
(2)Webサイト発信、News Letter発行
(3)AIR事業運営マニアル発行とメントリング・プログラム(コンサルタント)実施
(4)活動会員間の相互理解と交流など(隔年の総会の他、地域会合、他機関との共催など)
(5)活動資金:会費、助成金(EU、オランダの文化財団ほか、2年前まではFord財団からの助成されていた。)

*Res Artisの活動内容、また入会手続きなど詳細につきましてはWebサイトをご参照願下さい。

[2008年12月]