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レジデンス連携2012.10.2

アーティスト・イン・レジデンスの現在 13:マリオ・カロ氏インタビュー

1──レズ・アルティス(Res Artis)の歴史

マリオ・カロ──レズ・アルティスは、1992年にアーティスト・イン・レジデンス(以下、レジデンス)に関係する人々が頻繁に出会える方法を確立する必要があると実感した一握りのレジデンス主催者が集まって開かれた非公式の会合から始まりました。最初は人々がざっくばらんに集まり、彼らが中心となって2年ごとに会合が開かれることになりました。そして、いまなおこの当初の目的がレズ・アルティスの主たる存在理由となっています。
すなわち、レジデンス主催者やレジデンスに関心のあるアートの専門家が集い、レジデンスの現場における緊急の課題に対応するための話し合いの機会を提供することなどを目的としています。当時、もっとも差し迫った課題は、世界中でレジデンスが急増し、それにともなう問題に対応するために互いにいかに連携するかということでした。
レズ・アルティスの基本的な活動は専ら、文化交流、アーティストの流動性をうながすことを目指していますが、レズ・アルティスのおもな関心事であり焦点となるのは、レジデンス会員のニーズに応えることです。プログラム活動を通して、私たちはレジデンス・プログラムの主催者が文化的先入観に疑問を投げかけ、世界観を広げるためのクリエイティブなモデルを開発するために不可欠な場を提供しています。

────世界全体で会員は何名いらっしゃるのでしょうか。

カロ──世界全体の会員数を合計すると600名くらいです。私がレズ・アルティスに参加したときには300名を少し超えている程度でした。現在の法人会員数は合計で85です。この間にかなりの発展を遂げたことになりますが、その理由は二つあると私たちは考えています。
ひとつは、組織としての認知度が以前に比べてはるかに高くなったことです。そして、認知度の向上にともない、会員数が増えてきました。しかし、レジデンス活動そのものがかなり発展してきていることも会員数が増えた要因になっていると思います。2009年には韓国で地域会議を開催し、アジア全体とその特有のニーズにも目を向け始めました。レズ・アルティスの会員は現在、日本に8団体、韓国に9団体、中国に12団体となります。

2──レズ・アルティスの使命

カロ──さきほど述べたように私たちの基本的な活動は出会いの場や機会を提供することであり、これがレズ・アルティスの創設理由です。私たちは、会員のさまざまなニーズに応えることができるように、二つのタイプの会合を設けています。「地域会議」と呼んでいる会合と、2年ごとに開催される「総会」です。前回の総会はモントリオールで開かれ、その前はアムステルダムでした。またベルリンやオーストラリアのシドニーとメルボルンで開いたこともあります。ご存じのように2012年には、東京で総会が開かれます。
地域会議は、レジデンスに関して発展途上の国や地域で開催しています。とりわけ、アジアを非常に大きな実験的地域と考えており、また成長著しい東欧や南米、アフリカなどこれまでと異なる地域におけるレジデンスの発展についても注意深く見守っています。
次に私たちの具体的な計画についていくつかお話しします。いまのところ、私たちが提供しているプログラムは数多くはありませんが、そのひとつがレズサポート(ResSupport)と呼ぶメンタリング・プログラムです。
このプログラムはおもに新しく立ち上げたレジデンスを対象としていますが、異なる4種類の活動から構成されています。まず、ワークショップですが、レズ・アルティスではすべての会合でワークショップを設けています。このワークショップは私たちが考案したもので、レジデンスの立ち上げ方やなにを優先する必要があるかについて説明するものです。たんにプレゼンテーションを行なうだけでなく、参加者が実際にミッション・ステートメントの草稿やアクションリストを作成したり、同じ目的を持つ人たちと情報交換することができるような環境を提供しています。多くの参加者はすでにレジデンス組織を発展させる方法についてある程度の知識や経験を持っています。また、彼らは、会場、場所、あるいは資金調達源も確保しており、また自分たちのレジデンスを組織として確立するための法的手続きも踏むなど、豊富な経験を積んでいます。ワークショップに参加する人たちは皆、異なる視点を持ち、異なるステップを踏んで新しいレジデンス組織を確立してきた人たちなので、それぞれの経験について情報交換することが可能なのです。
二番目の活動は一対一のメンタリングです。これはレジデンス活動において経験豊富なメンバーと実際に会って話ができる機会を提供するものです。
そして、三つ目は、レズサポート・フェローシップと呼ばれているものです。新しく設立されたレジデンスがフェローシップに申請できます。これは評判の良いレジデンスが、組織内で実施してきた定評のある活動内容を新たに設立されたレジデンス主催者に伝授する機会を提供するもので、レジデンスのためのレジデンスと言えます。こうした機会を最初に提供したのはドイツにあるアカデミア・シュロス・ソリテュード(Akademie Schloss Solitude)でした。レズ・アルティスもロサンゼルスにある18番ストリート・アート・センター(18th Street Arts Center)と協力してメンタリングの場を提供してきています。
最後に四番目の活動として、レズ・アルティスのウェブサイト上での情報提供があります。これらの有益な情報のなかには、基本原則についての手引きもあり、レジデンスを確立するために必要なあらゆる側面を網羅したガイドラインを提供しています。また、ケーススタディに関する情報に加え、その他の情報、さらにそれぞれが抱える課題についてレジデンス仲間が互いの意見を交換できる場を提供するネットワーキングサイトもあります。

3──レズ・アルティス総会2012東京大会

────次に2010年、モントリオールで開かれた総会について、また東京で予定されている次の総会についての見通しについてお伺いしたいと思います。

カロ──レズ・アルティスの2010年の総会は、アーティスト運営センターのネットワークであるRegroupement des centres d’artistes autogérés du Québec(ケベック自主運営アーティスト組合、RCAAQ)の主催で開かれました。2010年の総会に先立ち、RCAAQから素晴らしい企画の提案を受けて実施されたのですが、同じ頃、私たちは2012年の総会の開催に向けて会員からの企画提案を募る書面の用意を始めていました。その結果、いくつかの興味深いフィードバックが得られ、そのなかからトーキョーワンダーサイトが選考されたのです。モントリオールの企画が選ばれたのは私がレズ・アルティスに参加する前のことですが、やはり素晴らしい企画でした。トーキョーワンダーサイトは私たちが納得するテーマを案出し、その後、協力しあって2012年に開催される3日間の会議のためのプログラムを共同で作成しました。
ところで、私たちの会員についてですが、実際のところ、自身でネットワーク活動を行っている会員が複数いますので、ある意味、私たちはレズ・アルティスをネットワークのためのネットワーク組織と考えています。

────全体的なテーマに関してはどのような議論がされたのですか。またそれらのテーマが選ばれた理由はなぜですか。

カロ──モントリオールの総会では、テーマを「南北アメリカ──グローバル化の時代における独立した芸術の実践」とし、アメリカ大陸における北と南の関係が議論の中心となりました。アメリカ大陸は北と南では大きな格差があり、不平等が存在しています。モントリオールの総会について誇りに思っていることのひとつは、3言語の同時通訳を用意したことです。非常に経費がかかりましたが、すべての会議に英語、フランス語、スペイン語の同時通訳を準備しました。また、パネリストのスケジュール調整が大変だったので、ロジスティック面でも難しい問題がありました。

────2012年に東京で開催予定のレズ・アルティス総会ではどのようなプログラムを計画していますか。

カロ──トーキョーワンダーサイトは当初、テーマとして「新たな地平」を提案してきましたが、最終的には「クリエイティブ・プラットフォームにおける新たな地平」で合意しました。「新たな地平」にはなにがあるのかに話が集中することになると思います。アジアについてだけでなく、日本の状況にもフォーカスが当てられることは明らかです。現在、プログラムを作成中しているところです。

4──日本のレジデンス・プログラム

────日本のレジデンス・プログラム、例えば、秋吉台国際芸術村やそのほか、あなたがご覧になったレジデンス・プログラムについての印象をお聞かせいただけますか。

カロ──世界の他の国と同様に日本のレジデンスも、じつに多彩だと思いました。確かに秋吉台国際芸術村など比較的歴史のあるレジデンスはしっかりと地位を築いており、世界的に知られています。最近、新しいレジデンスも増えていますが、多様な文化がある日本はそうした多様性を提供できると思います。また、日本ではレジデンスがどこにあるかが非常に重要となります。
米国においてはレジデンスが中西部にある場合、オハイオ州にあってもインディアナ州にあっても大きな違いは生じません。中西部が非常に広い文化域のひとつだからです。しかし、ここ日本では場所を少し移動するだけで文化がかなり違ってきます。アーティストが日本でレジデンスを探そうとする場合、日本のどの場所に住みたいのかを明確にするための下準備が必要です。日本は東京だけではないのですから。

────あなたが見てこられて、日本のレジデンスはどのような課題を抱えていると思われますか。

カロ──日本のレジデンスが対応すべき基本的な課題は広報でしょう。地域を超えてその存在を人々に知らせる必要があります。その多くは言語に関係する努力が必要だと思います。多言語に対応していれば、メディアを使って、またさまざまな会場で自分たちのことを知らせる資料を発表することができますし、その結果、そうした文書が世界各地で読まれることになります。
これはレズ・アルティスへとつながるプラグのようなものです。プラグはレズ・アルティスだけに留まりません。トランス・アーティスト(Trans Artists)アーティスト団体連盟(Alliance of Artist Communities)もプラグとして活用することができます。日本のレジデンスはあらゆる種類の組織やウェブサイトにアクセスしていくべきです。また、欧州との関係も築くことが必要です。しかし、なんといっても日本のレジデンスにとっての最大の課題はその存在を世界に知らせることであり、今後は多言語での発信の努力が必要だと思います。
英語だけでなく、スペイン語などの他の主要言語も必要だと思います。例えば、日本のレジデンスがラテンアメリカからの訪問者を受け入れたいと思うのであれば、residencias_en_redなどのネットワークにアクセスしなければなりません。このネットワークとの関係を確立することはラテンアメリカのアーティストを日本にひきつける際に非常に有効だと思います。
日本のレジデンスは日本国内における広報については経験豊富だと思いますが、英語とフランス語で広報を行なえば、欧州以外の多くの地域に確実に情報を伝えることができます。FacebookやTwitterなどのソーシャルネットワークのサイトも有効的な手段ですが、結局は多様な言語で情報を発信することが非常に重要なのです。ただし、当然のことですが、これらの課題を克服するもうひとつの方法は2012年10月のレズ・アルティス総会に参加することです。総会はレジデンスの世界を日本にもたらすユニークな機会を提供することになると確信しています。

[2011年8月8日、遊工房にて]