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アーティスト・イン・レジデンスの現在 06:Youkobo Art Community小さなアートの複合施設から大きな可能性を! 遊工房アートスペースにおけるアーティスト・イン・レジデンス活動を通して考えること


村田達彦(遊工房アートスペース)

I──遊工房アートスペースのあらまし

ギャラリー、創作スタジオ及び滞在施設を備えたアートの複合施設として、特にアーティスト・イン・レジデンス(以下「AIR」)プログラムは、国内外のアーティストが、東京という魅力的な都市に滞在しながら活躍を広げる機会と、多様な分野のアートを地域の人々が身近に触れる場を提供しています。建物は、 70年代まで診療所兼療養所として、また80年代からは、さまざまな芸術活動の場に使用されてきました。
この東京・杉並に位置する複合施設を中心に、多彩なアート活動やアートを通したコミュニティ活動(遊工房アートコミュニティ)そして交流が展開され、発展し、変化し、醸成してきました。活動の成果は、ギャラリーでの発表、さらに国内外のアーティスト間の交流に発展し、地域内外に広がるアートを通した諸活動と連携しています。

1)遊工房アートスペースでのアーティスト・イン・レジデンス
国内外のアーティストのための、滞在を通した新たな創作活動の機会と場を提供しています。作家自身の意思による滞在計画の尊重を第一として、一人一人の多様なニーズ、たとえば、滞在制作し発表したい、プロジェクト活動に利用したい、研究の為に東京や日本に滞在したい、または東京や日本のアートシーンを体験したい等々に答えるため、きめ細かくフレキシブルに対応しています。アーティストはそれぞれの目的をもち滞在していますが、その目的が気持ちよくスムーズに進められるように、日常生活や活動の場つくりをサポートしています。このプログラムには、備品、LAN接続環境等が完備した創作スタジオと滞在住居の貸与があり、専門的・人的サポートも充実しています。アーティストや地域のネットワーク(地元アーティスト・グループや関係機関)と連携した受け皿があり、ワークショップ、展覧会・講演等の機会の用意があります。オープンスタジオやギャラリーも備わっていますので、こちらも利用もできます。

2)ギャラリーでの展示発表
国内外のアーティストが作品を発表したり、アート活動を展開する場として、現代美術の発信を基本に、アーティスト自らがマネージメントを行なうことにより、独自性のある展覧会が開催できるギャラリーです。アーティストが展示準備、実施、記録作成、作品撤収及び展示後の補修などを実施します。また展示経験の浅い若い作家の展覧会提案には、マネージメント面でのサポートも行ないます。

3)交流の場「アーティスト・ラウンジ」
ギャラリーに隣接したラウンジは、滞在するアーティスト、来訪する美術関係者や地域の人々が交流スペースとして気軽に活用できます。ここには国内外の AIR関連資料がそろい、独自データベースの検索やインターネットを自由に活用することができます。AIR体験の機会が活発になるように、アーティストの体験情報や募集情報などの持込を受けるなど検索データを充実させ広く活用されるよう工夫しています。

4)地域との、国際交流などの諸活動
アートスペースでの活動と並行して、地域では、2002年より地元のアーティストや関係者が集い、地域の都立善福寺公園での野外アート展「トロールの森」や、小学校の「土曜日教室」での「アートキッズ(子供地域アート探索隊)」の開催などの地域に根付いたアート活動をおこなっています。
また、AIRの国際ネットワーク「Res Artis」に、2002年から加盟し、海外の活動機関との連携・協調など試行を重ねています。2005年に始まったアジア・オセアニア地域内のネットワーク「Intra Asia Network」にも参画し、アーティストとの交流発展を模索しているところです。
国内においては、AIR運営担当者のネットワーク「J-AIRネットワーク」にも参画し、国内外のアーティストの広範にわたる活動支援や、AIRの運営向上をめざして研鑽に励んでいます。

II──AIR(アーティスト・イン・レジデンス)の思い

AIRとは不思議な響きを持った言葉であると思います。10年以上も前に日本にもたらされた用語でありながら、未だにカタカナのままで使われています。アートに係わる用語は、国内ではカタカナのままがふさわしいと、専門家はお考えなのでしょうか。中国語では「藝術家進駐」と記述します。日本語での的確な呼び名ができないものでしょうか。
アーティスト側から見たAIRのあり方と、組織運営側から見たAIRのあり方では、場合によっては、大きな考え方の相違があるという話も聞きます。どのようなあり方が良いのか私たちも常に模索しています。

1)AIRの歴史は?
1889:Worpswede(Bremen)、1900:Yaddo (NY)、1903:Byrdcliffe Arts Colony(NY)、そして、1960年代、AIRの新しい波、反体制の象徴として群雄割拠(欧米)、1990年代、第3の波として、世界に広がり、ブラジルから台湾、エストニアからザンビア、日本からベトナムに広がったといわれています。(Trans Artists News Letter 13, 2005 よりの要約)
また、某建築家の話によれば、美術館発展段階としての認識として、第1世代19世紀までの古典的博品陳列館から始まり、第3.5世代にAIRが美術館の代わりに位置して来たとの考え方もあるようです。
茨城県で岩瀬石彫展覧館AIRを運営されている浅賀正治さんのご意見によれば、AIRは日本古来の文化の中で育ってきた、創作旅行「旅先作り(たびさきづくり)」がそれにあたるのではないかということには納得いたします。特に江戸中期以降、北斎、円空、木喰、芭蕉、武蔵等など沢山の芸術創作家の例を容易に掲げることができます。

2)AIRは誰のもの
もちろん一義的にはアーティストでしょう。そこでアーティストとは?という観点について3つの事象から考えてみたいと思います。

第1に、アーティストとは芸術に真摯に取組み続けている個人を指すと考えられます。芸術家である証しとして、ニューヨーク市文化局・芸術家証明書・申請資格、The Artist Certification, Department of Cultural Affairs, NYC)には、次のような記述があるようです。

(1)商業的芸術でなく、純粋芸術—すなわち、絵画、彫刻、振り付け、映像、作曲その他を含むものの創作を、不断に進行させている個人。(2)自己の表現形態に真剣かつ不断に傾倒してきたことを証明できる個人。(3)現時点でも、その表現形態に専心、従事している個人。

次に、芸術家としての成長の6段階という興味深い区分けがあるのでご紹介します。(1)生活にもチャンスにも飢えている芸術家、(2)芸術家稼業以外の職で生活費を稼いでいる芸術家、(3)芸術家稼業だけで食べていける芸術家、(4)頭角を現し始めた芸術家、(5)名のよく知られた芸術家、(6)(過去の巨匠ではなく)今この時代に生きて作品をつくり続けている現存の芸術家。

最後に、2種類の芸術家、すなわち、クリエイトする(つくる)芸術家(Creative Artist)と解釈系の芸術家(Interpretative Artist)の存在についてです。クリエイトする(つくる)芸術家としては、美術作家、作曲家、詩人、舞台美術家、振付家、個人の映像作家など、無からモノをつくる創造を仕事とする者(製造業)と、戯曲家の作品を演ずる「役者」、振付家の作品を踊る「ダンサー」、作曲家の作品を弾く「演奏家」など。クリエイトする(つくる)芸術家が創造したものを実践する者(解釈業)です。社会の中で芸術家として生きて行くのが一番困難なジャンルは、解釈系と呼ばれる芸術家よりもクリエイティブ系の方であると言えるでしょうか。

日本一の山、富士山の裾野が広いように、高い山(素晴らしい芸術家)を育てようとすれば、5合目までの裾野がしっかり広がっていなければなりません。裾野とは、この場合、自己の表現形態に真剣かつ不断に傾倒してきた、特にクリエイトする(つくる)芸術家(Creative Artist)を指します。そして、生活にもチャンスにも飢えている芸術家、芸術家稼業以外の職で生活費を稼いでいる芸術家にも光を当てたいと思います。 AIRは、こうした、裾野に生きるアーティストの成長の起爆剤の役目を持つものと考えます。

3)AIRから学ぶこと・素敵な滞在アーティストたち
あるべきAIRの目的に向かって、不足していることを補いながら活動を継続しています。これまでに、20カ国地域から、100名以上のアーティストをお迎えしました。

■AIRがAIRを生む
2002年に遊工房AIRに滞在したフィンランドの彫刻家は、帰国後地元の空き農家を中核とした、小規模ながら素敵なサウナ付のAIRを開業。仲間とともに、地元行政さらにEUの予算を獲得し、3年がかりで実現させました。開所に当たり招聘作家の第1号は日本から派遣し、その後まもなく、両AIRの関係とエピソードを語る機会が、地元オウル大学でありました。

アンティ・イロネンAntti Ylonen(フィンランド・オウル市)

■四季を通して変わる光を求めて、2年間に4回滞在し完成させたアーティスト
それは2007年の秋から始まり、2008年の夏まで、旧結核療養所であった、スタジオスペースのもつ場の雰囲気を利用し、効果的に、光、体、サウンドを生かして、パーフォーマンスを展開した、2人のアーティストは、出身地スイス・ジェネーブのアートスペースとの比較をしながら、生と死を表現し、多くの方に深い感銘を残すプロジェクトをしました。
イグイ・ロレとミリアム・ゾウリアスIguy Roulet & Myriam Zoulias(スイス・ジェネーブ)

■眠らない都市の生態、オランダ・デンハーグと東京への思い
オランダの写真家は、現代社会の現実をオランダ・デンハーグの写真200枚の掲示から日ごとに東京の夜の作品に置き換えていく実験的な展示をスタジオにおいて1カ月間開催しました。1カ月後には会場は、すべて東京の写真へと入れ替わりました。会期中、誰でも入れるように開け放たれたスタジオには、国内外の写真家や、地域の人々との対話や交流が活発に行なわれ、地で行く国際交流、コミュニティアートの見本となりました。
レオ・ヴァン・デル・クレイLeo van der Kleij(オランダ・デンハーグ)

■子連れアーティスト奮闘記
スペインの画家は、同時に3人の子ども(1歳、3歳、5歳のいずれも男児)のお母さんでした。地域の幼稚園、保育園探しから、喘息持ちの長男の看病などもこなしながらの滞在制作でした。昼は子育て、深夜はスタジオ制作という日々でしたが、子供の体調もあり、6カ月の予定は無念ながら短縮されました。努力の人でした。
スサナ・ロベルディートSusana Roberdito(スペイン・バルセロナ)

■GIP(Global Internship Program)の展開
インターナショナルな活動にするには、と「遊工房インターナショナル」を模索していたときに、Res Artisの前会長マリア・ツエリングさんのご助言で、海外からアートマネージメントやキュレーションを手がけている若手の起用を思いたちました。それが GIPです。
初代は2006-7年、オランダ、2代目2007-8年、UK、3代目2009年はスペイン・バルセロナからです。
ユーコ・コテラYuko Kotera(オランダ・アムステルダム)
ジェイミー・ハンフリーズJaime Humphries(英国・シュルスベリ)
マータ・ガリシアMarta Gracia(スペイン・バルセロナ)

■Res Artis交流から見えること
アーティストの活動支援と、アーティスト自らの滞在創作活動が基本。アートに国境は無いと感じます。そして、数々の交流プログラムが滞在と交流を縁に派生して、ベルファースト、イスタンブル、台北、ベトナム、マケドニア・スコピエなど、少しずつ、じわじわと展開継続中です。

■マイクロ・レジデンシー
世界一番小さいAIRの命名をして下さいというお願いに、2005年の滞在アーティスト、ルイスとサンドラの回答は、「遊工房アートスペース=マイクロレジデンシYoukobo Art Space as micro-residency」です。
ルイス・レコダとサンドラ・ギブスンLuis Recoder & Sandra Gibson(米国・NY)
その折のエッセイを次に紹介します。

III──遊工房アートスペースのこと(Essay)

Youkobo Art Space: A Micro-Flexible Arts Community in Tokyo
A Brief Essay of Appreciation by Luis Recoder and Sandra Gibson

アーティストレジデンスとしての遊工房をユニークにしている要素はその親近感わくこぢんまりとした大きさにある。もう少し具体的に言うと、「遊工房アートスペース=マイクロレジデンシー」ということである。

私たちはよく遊工房でのやり取りの中で、この遊工房というレジデンシが他に類を見ないものであることについて語り、そして、それは広い柔軟性を兼ね備えた、規模のコンパクトさを持ち合わせていることに起因するという結論に達した。

つまり、柔軟性における「マクロ(極大)」を持ち合わせた、規模における「マイクロ(微小)」なのである。つまり、遊工房においては、ほとんどすべてのことが可能であると言えるのだ。アーティストは、遊工房を「アートスペース」として実験的な独自の方法による各々の空間に変貌させることができる。

それでは、遊工房アートスペースにおける「アートスペース」とは一体何だろうか?

それは、絶え間なく変化する、スタジオ、ギャラリー、そしてレジデンシといったスペース全体の趣き(アンサンブル)、もしくは、連絡網(ネットワーク)である。

例えば、スタジオは時にギャラリーの別館としても使われる。また、あるいは、もしくは、レジデンスは簡単にスタジオスペースとして早替わりすることも可能である。

一つのスペースはまた別のスペースへと変化し、そしてまた別のスペースによって取って代わられる。

質問──何が遊工房の特筆すべき気質として考えられるだろうか?
回答──共同経営者である村田夫妻の先例のない協業チャレンジ精神。村田夫妻
は遊工房に訪れるすべてのアーティストのニーズや要望を理解しているだけでな
く、常日頃、遊工房がいかにしてより良いアーティスト・イン・レジデンスにな
り得るかということも自問している。

遊工房は、ある部分においては、アーティスト達の日常的な要望によっても、また進化を遂げている。そして、そういったことはアーティストたちに理想的なアートセンターの創造に積極的に参画するものとしての意識を芽生えさせている。

舵を取るたった二人の指揮者による小さな運営管理としての「マイクロ」。
簡素でありながらも、心に触れる、社会における大きさとしての「マイクロ」。

それが遊工房アートスペースだ。

Youkobo Art Space: A Micro-Flexible Arts Community In Tokyo
A Brief Essay of Appreciation by Luis Recoder and Sandra Gibson

What makes Youkobo Art Space unique as an artist’s residency is its intimacy of scale ? or more to the point: Youkobo Art Space as micro-residency.

In an impromptu presentation at Youkobo, we spoke about what makes this particular residency so extraordinarily different than the others and came to the conclusion that it had to do with “smallness of scale” coupled with “vastness of flexibility.”

The “micro” in terms of size coupled with the “macro” in terms of the flexible.

Which goes to say that nearly everything is possible at Youkobo. The artist is completely free to explore, interpret, and personalize what Youkobo offers as “art space.”

What is “art space” at Youkobo Art Space?

It is an ensemble or network of spaces in constant flux: studio, gallery, residency.
For example, the studio can also be used as a gallery annex. And/or a residency accommodation can be easily converted into a studio space.

One space drifts into another, is permeable by and through the other.

Question: What accounts for Youkobo’s exceptional disposition towards the flexible? Answer: The unprecedented collaborative venture of a co-directorial couple-team – Hiroko and Tatsuhiko Murata-san. Not only do they understand the needs and requirements of each and every artist who arrives at Youkobo but they are also frequently asking the artist-in-resident: How to make Youkobo a better place for artists?

Youkobo is that “better place” partially due to the solicitation of artist’s input and suggestion. And this gives the artist a sense that he/she is an active participant in the shaping of a visionary art center.

Micro as the micro-management of operation, with only two directors at the helm.
Micro as a concise, yet poignant, measurement of the social.

●参考文献
塩谷陽子『ニューヨーク──芸術家と共存する街』(丸善ライブラリー、1998)
林容子『進化するアートマネージメント』(レイライン、2004)
J-AIRネットワーク会議運営委員会『2005日蘭アーティスト・イン・レジデンス担当者交流事業報告書』
J-AIRネットワーク会議運営委員会『第7回J-AIRネットワーク会議報告書』

●サイト一覧
遊工房アートスペース
Res Artis:アーティスト・イン・レジデンスの世界ネットワーク
Trans Artists:アムステルダムに本部を置くアーティスト活動情報センター
Intra Asia Network:仮想空間のオフィスに、アジア版ネットワークが生きている

[2009年3月2日]