AIR_J日本全国のアーティスト・イン・
レジデンス総合サイト

Twitter JPEN

AIR_J日本全国のアーティスト・イン・レジデンス総合サイト

articlearticle

ARTICLEレポート、インタビューやAIRに関する記事など

レポート&インタビュー2010.5.24

アーティスト・イン・レジデンスの現在 03:DANCE BOX & JCDN

大谷 燠(NPO法人DANCE BOX 代表)
佐東範一(NPO法人 JCDN[Japan Contemporary Dance Network]代表)
[聞き手]柄田明美(ニッセイ基礎研究所)

パフォーミングアーツ(舞台芸術)では、従来から滞在型の作品づくりが行なわれており、特にコンテンポラリーダンスでは、海外との共同制作や、異なるジャンルとのコラボレーションが積極的に行なわれている。今回は、コンテンポラリーダンス界を先導している2つのNPO、Dance Box・大谷氏とJCDN・佐東氏に、コンテンポラリーダンスにおけるアーティスト・イン・レジデンスについて、お話をうかがった。
※両事業の詳細については、日本のアーティスト・イン・レジデンスデータベースを参照のこと

コンテンポラリーダンスにおけるアーティスト・イン・レジデンスの目的、位置付け

──まず、コンテンポラリーダンスにおけるアーティスト・イン・レジデンスの目的や位置付けについて、DANCE BOX、JCDNの事業を例にお話頂けますか。

大谷──ダンスボックスでは、2003年度から芸術家交流事業「ART-EX」と協力関係にあります。2006年度は、ダンスボックスでフランスの振付家ジャン・ゴーダン(Jean Gaudin)のレジデンスを約2カ月受け入れました。ゴーダンは、従来のダンス作品の概念ではなく、映像とのコラボレーション、関西のアーティストと付き合うこと、大阪の風景を作品の中に織り込んでいくことで、新しい作品を創り上げました。
また、今年2月にはアジア・コンテンポラリー・ダンスフェスティバルを開催しました。招へいアーティストの一人にタイのピチェ・クランチェンというコレオグラファーがいますが、彼が行なっているのは、タイの伝統仮面舞踊「コーン(Khon)」の基礎を大事にしながら、それを壊していくということです。しかし、それはタイ国内ではできない。だったら、それを大阪でやりましょうということになったのです。
ワークショップ兼オーディションを行ない、約3週間で作品づくりをしました。この作品は、今年12月にバンコク公演、沖縄公演が予定されており、沖縄公演は新劇場のオープニングプログラムの一つです。


タイの伝統仮面舞踊「コーン(Khon)

──実験的な作品づくり、異なるジャンルとのコラボレーションなどでレジンデンスを行なっているんですね。

大谷──そうですね。それと、劇場は作品を生み出す機能を持つ必要があると思っています。しかもその作品は巡演されていくという構造にしたいと日頃から思っているのです。レジデンスはそういったことにつながっていくから面白いのでしょうね。

──佐東さんは、いかがですか。

佐東──1996年から1年間ニューヨークに滞在していたのですが、ニューヨークには日本のアーティストが公演などで結構いっぱい来る。けれど、公演に来るだけでは、劇場とホテルの往復が主体になってしい、もったいないと思っていました。そんな時、インドネシアとアメリカと日本の3カ国プロジェクト「トライアングルプログラム」に参加したんです。1カ月ずつ各国に滞在しながら、3カ月間旅をするプロジェクでした。ダンスの公演、ワークショップを行なうことが目的でしたが、参加メンバー同志で話し合う時間がいっぱいあったし、滞在をしてその土地の空気と生活に触れることは、参加者にさまざまな影響や効果を与えました。その体験から、日本に帰国して1998年に京都でJCDNを立ち上げたとき、主催事業の際は必ず「滞在」を基本にしようと思いました。
今、舞台芸術の場合、作品を創るためにレジデンスというものがついているけれど、「滞在」そのものを重視したプロジェクトがあってもいいと思います。「滞在」だけでもとても意味があるのです。

──「レジデンス」といった場合、期間というのはどのくらいを意識していらっしゃいますか。

大谷──1週間いればある程度地域には馴染むけれど、それぞれのアーティストが持っているものを出し合って、それを調整して、新しい価値観を生み出し、作品づくりまで持っていくには1カ月〜2カ月は必要でしょうね。

地域への効果

佐東──1カ月滞在していると、町中の食堂でご飯を食べたり、買物のついでに地域の人たちと話をしたり、するわけです。そうやって地域と関係性ができると、アーティストにとってそこは第二のふるさとになるんです。僕は、レジデンスでアーティストにとっての第二のふるさとをたくさん作りたいと思っています。
よくJCDNの事業で地方に行くと、地元のコーディネーターの方に、「僕たちは何をしたらいいでしょうか」と聞かれるんです。それは、まずは地元のアーティストを育てていくことだと思います。その方法としては、どっぷりとアーティストにその地に住んでもらって、彼らに地元のアーティストになってもらうことが一番なんです。
アーティストは、新しい価値観を作りだすプロだし、ある種のコミュニケーションのプロであるわけです。そういう人は、その地域が何かをやろうとするとき、弾みをつけたり、背中を押してあげたりする力を持っています。地域に普通にアーティストが生活している、そういう環境を作るためにレジデンスは大切な入口になると思います。

大谷──地域との関わりということでは、オランダのビー・ワンダーというアーティストに1カ月滞在してもらい、映像とダンス、2つの作品を制作してもらいました。タイトルは「ガーデン・オブ・エロス」(Garden of EROS)。これは、「愛」をテーマに「オーラルヒストリー」という手法で、新世界とその周辺地域で生活する70歳以上の方々にインタビューを行ない、彼らの記憶を作品化したものです。
舞台には、6人のおじいさん、おばあさんが上がりましたが、彼らの家族や友人が舞台を観にきてくれましたし、普段コンテンポラリーダンスとは縁がなかった出演者たちが、その後も劇場に立ち寄るようになったんです。レジデンスという形で、地域を巻き込んで作品づくりをした効果だと思います。
また、アーティストをレジデンス事業に招へいする際、これをやらなければならないという明確な目的があるので、アーティストと地域が、また違う形での出会えるようにしたいといつも考えています。あるとき、奈良の福祉施設に行くので滞在アーティストに声をかけたら、彼の国では、そういった活動は日常的にやっていることだと言うわけです。そこで、彼にワークショップをしてもらいました。それは施設で暮らす障害を持つ方々にとっても、アーティストにとてもいい体験となりました。
こういった体験があると、アーティストはもう一度来たいと思うわけです。一度来たらおしまいではなく、レジデンスを繰り返しながら、アーティストが地域との関係性を深めていくことが大切ですね。

アーティストの選び方

──ところで、舞台芸術のレジデンスの場合、アーティストは、どういう形で選んでいらっしゃるんですか

佐東──初めての方にいきなりレジデンスを頼むということはあまりないですね。一度でも公演に来てもらったことがあり、この人だったら何かおもしろいことをするんじゃないかと思う人に声をかけます。

大谷──オファーがある場合は、「まず作品を見せてくれ」と言うようにしています。このアーティストがレジデンスをすることで、新しい可能性が生まれるのかどうか、そこを見極めないと失敗してしまうからです。

佐東──特に、地域で作品づくりをする場合、失敗してしまうと次の機会は無いので、慎重になりますね。ダンサーってこんなひどい人なんだと一度思われてしまったら、その地域にアートの芽は育たなくなってしまうのです。日本のアーティストの場合、自分たちが社会的な存在として何をしなければいけないのかと意識している人は、まだまだ少ないですから。

レジデンスをバックアップするしくみ──助成制度の問題

佐東──日本の助成制度は、作品制作や公演に対する助成であり、「レジデンス」自体をバックアップするしくみがないんです。ですから、どこかの助成機関がレジデンスに対するサポートを始めたら、それが呼び水になると思います。額は小額でもまったくかまわない。公演事業の中の30万円というと、大きい額ではないけれど、レジデンスの場合は、30万円あったら1カ月のホテル代が十分出ますから。
あるいは、別のやり方として、地域発の事業をしたいと思っている公共ホールなどが連携し、制作した作品を、滞在を受け入れる施設の共同制作という形で、巡演するようにできないかと思っているんですよ。

──そうですね。これから、舞台芸術におけるレジデンスについて、しくみやバックアップの方法をいろいろ考えていきたいですね。

レジデンスの可能性

──最後に、レジデンスの可能性について一言頂けますか。

大谷──作品制作において、レジデンスは、表現における新しい可能性を見つける非常にいい機会になります。国が違う人が協働するということも然り、地域の人と協働するということも然りで、アーティスト一人の力では、決してできないような作品も生まれてきます。
また、「ソーシャル・インクルージョン」(社会的包括)という言葉ありますが、レジデンスで地域との関係性を深める、アートが届かない人に作品が届くようにする、アートと関係がないと考えていた人とコミュニケートする、そういう可能性があると思います。

佐東──繰り返しになりますが、アーティストにとっては第二のふるさとを作る、地域にとっては世界中に地元のアーティストを作る。その入口としてレジデンスの可能性はとても大きいということでしょう。

──本日は、どうもありがとうござました。

[2007年5月26日、フェスティバルゲート Art Theater dBにて]