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アーティスト・イン・レジデンスの現在 14
マイクロ・レジデンスの可能性(レズ・アルティス総会2012東京大会レビュー[1])


鷲田めるろ(金沢21世紀美術館キュレーター/CAAK, Center for Art & Architectureボードメンバー)

2012年10月、東京でレズ・アルティスの総会が行なわれた。レズ・アルティスとは、オランダに本部を置く、世界のアーティスト・イン・レジデンスのネットワークで、2年ごとに世界各地で総会が行なわれている。総会にともない、4日間にわたって、約20のプレゼンテーションやセッションが組まれた。そのなかのひとつ、セッション3「マイクロ・レジデンス、アーティスト経営によるレジデンス」について報告する★1

マイクロ・レジデンスとは?

「マイクロ・レジデンス」という言葉は、このセッションのパネリストの一人、村田達彦の提唱しているもので、まだ一般的に定着しているとは言いがたい。村田によると、この言葉は、2005年に、村田が運営するアーティスト・イン・レジデンス「遊工房アートスペース」(以下、遊工房)に滞在していたアーティストが、遊工房を評した言葉に由来する。その特徴として村田は、予算的にも施設的にも小規模であること、行政のスポンサーシップから独立した、アーティスト・ランあるいは草の根的な運営であること、それゆえに、柔軟な対応が可能で、滞在するアーティストのことを最優先に考え、人間関係を大切にしていること、を挙げている★2。私がボードメンバーの一人である非営利の任意団体CAAK, Center for Art & Architecture, Kanazawaでもアーティスト・イン・レジデンスを行なっており、まさにこのマイクロ・レジデンスに該当する。それゆえ、私は村田の活動に強く共感するのだが、アーティスト・イン・レジデンスの施設というと、国際芸術センター青森・ACACアーカスプロジェクトトーキョーワンダーサイト秋吉台国際芸術村など、まず公立の施設を思い浮かべてしまうのが現状だ。そのようななか、世界中のアーティスト・イン・レジデンスの関係者が集まるレズ・アルティスの総会において、このようなマイクロ・レジデンスをテーマとするセッションが組まれたこと自体を評価したい。
遊工房は、2001年にレズ・アルティスのメンバーに加盟しており、村田は理事を経て、現在は副会長を務めている。遊工房の運営だけではなく、国際的なネットワークの形成にも尽力してきたことが、レズ・アルティスの組織内でも正当に評価されて現在の立場があるのだろう。実際、本セッションの登壇者たちは、村田と関係の深い人たちが大半を占める。村田と、モデレーターの原田真千子以外の6人の登壇者のうち、アナト・リトウィン、フランシスコ・ゲバラ、ジュリー・アップメイヤーの3人は、ちょうどこの時期、遊工房で滞在しているアーティスト兼オーガナイザーたちである。私は参加することはできなかったが、その4日後には、ほぼ同じメンバーで、遊工房に場所を変え、マイクロ・レジデンスに関するトークとディスカッションを開催している★3

小規模ゆえの課題

セッションは、村田によるマイクロ・レジデンスのコンセプトの説明に続き、各登壇者が自らの実践する活動を紹介するというかたちで進められた。冒頭の村田の説明によると、レズ・アルティスに加盟している約400の団体のうち、約1/4がマイクロ・レジデンスに該当する。2011年には、レズ・アルティスに加盟していない施設も含めて164件ほどを対象に、マイクロ・レジデンスの調査を行ない、2012年6月にその中間報告を行なったという★4
最初のアナト・リトウィンは、自らが創設し、アーティスティック・ディレクターを務める「HomeBaseプロジェクト」を紹介した。一時的な「ホーム」を地域につくるというもので、リトウィンを含む5人で運営しており、ニューヨークで始まり、ベルリンとエルサレムで活動している。
次に、メキシコのArquetopiaのディレクター、フランシスコ・ゲバラは、活動の紹介をするなかで、活動の継続性を支えるのは、資金よりも施設などのインフラと地域での展開であると語った。
続いて、札幌のNPO法人S-AIRのディレクター柴田尚は、マイクロ・レジデンスにこだわってはおらず、行政とも組むとしながらも、インディペンデントであろうとする点ではマイクロ・レジデンスと共通すると述べた。行政のレジデンスでは難しい例として、たとえばアイヌというテーマも、外国人のアーティストを介することでうまく実施できることもあるという。
さらに、ヨーロッパとアジアをフィールドに活動するアーティストであり、キュレーターであるジェイ・コーは、マイクロ・レジデンスを取り巻く、概念的な枠組みを図示しながら説明した。「パブリックな参加型アート」「資源となる建物」「自己との対話、他者との対話」「擁護、研究、評価」「経験値としての交渉」といった概念が挙げられた。
続くジュリー・アップメイヤーは、自らが共同ディレクターを務めるイスタンブールのキャラバンサライを紹介した。キャラバンサライは、商業地区の金物屋だった建物を使って活動している。その場所を活用したいと考え、そこで働いてはいるが、コミュニティプロジェクトではないと明言していた。
最後に小田井真美は、京町家AIRと、鳥取の明倫AIRの紹介を通じ、アーティストとレジデンスのマッチングをどのように図るかについて、自らの経験をもとに語った。
ディスカッションでは、おもに、マイクロ・レジデンスにとっての共通の課題について、各登壇者が自らの経験から意見を述べるという形式で進められた。そのなかのひとつに、アーティストとしての活動と運営のための活動をどのように両立するかというテーマがあった。確かに、小規模ゆえ滞在者への対応に多くの労力がかかってしまうことは避けがたい。これに対しては、生活をともにする家族的なアーティストとのつきあいは、ホスト側で得られるものも大きいと納得することも可能であろう。S-AIRの柴田は、滞在者と受入者の両者の生活になんらかの変化を起こせたとき、レジデンスは成功したと言えると述べていた。キャラバンサライが自らの生活と制作の場でもあるアップメイヤーも、滞在者によってアーティストである自分も影響を受けると語った。しかし、以下は私の意見であるが、予算や施設の規模は小さくとも、ホスト側のメンバーを増やすことで、一人あたりの負担は軽減することもできると思われる。以前、ソウルの小規模なレジデンス★5に数日間滞在させてもらったとき、私が訪問したい場所、会いたいという人の名前を挙げただけで、そのアレンジをしてくれ、毎日別の人が車を出して案内してくれた。まさにリレー方式で、車で送ってくれただけの人もいたし、食事だけ一緒にしてくれた人もいて、たいへん充実した滞在となった。これは特殊な事例かもしれないが、地元に強力なネットワークを築くことにより、それに近づくことは可能だろう。もうひとつ、労力の軽減のためには、施設の維持にかける労力を極力減らすことが重要であると思う。例えば、遊工房は、村田の父の営む診療所兼結核療養所を引き継いで活動しており、このようなホームステイに近いかたちであれば、場所の維持自体に大きな資金や労力はかからない。キャラバンサライも自分たちの制作場所を一部開放しているようなかたちである。そうでなければ、大都市の家賃は高すぎる。家賃を払うために助成金を獲得したり、事業を行なったりする必要が生じて、それに費やす時間が多くなりすぎてしまう。その点では、家賃の安い地方都市や田舎のほうがマイクロ・レジデンスの可能性は広がっているように思われる。

キャラバンサライの建物(2階部分)。制作スタジオやパフォーマンス・スペースとして使用している。撮影=ジョナサン・ルイス

キャラバンサライの建物(2階部分)。制作スタジオやパフォーマンス・スペースとして使用している。撮影=ジョナサン・ルイス

遊工房(スタジオ1)。カタリナ・テュカ「スギナミ・スカイ」展のインスタレーション

遊工房(スタジオ1)。カタリナ・テュカ「スギナミ・スカイ」展のインスタレーション

問われる情報発信力

また、ディスカッションのテーマにはならなかったが、知名度がないために、滞在を希望するアーティストに知られにくいことは、マイクロ・レジデンスのもうひとつの課題だと感じた。アーティスト・イン・レジデンスの情報は、アーティスト、特にその施設に滞在経験のあるアーティストを介して広がる面もあるので、例えばトーキョーワンダーサイトのように、一度に多くのアーティストを受け入れ可能な施設は、周知という点で有利である。また、同時に滞在可能な人数が多ければ、アーティストにとって受け入れられるチャンスも多いため、注目もされやすい。一方、それが期待できないマイクロ・レジデンスの場合は、AIR_Jなど、アーティスト・イン・レジデンスのデータベースに登録されることや、他のレジデンスとの連携によって、その活動を知ってもらうことが重要だろう。CAAKでもアーティスト・イン・レジデンスを行なっており、まさにマイクロ・レジデンスに該当するが、AIR_Jに登録されて以来、アーティストからの問い合わせが飛躍的に増えた。また、S-AIRは、多くの国からのアーティストの受け入れに成功している★6。このことに関して、別のセッション★7で柴田は、「アーティスト・イン・レジデンスを運営している人は別のレジデンス施設を訪れることが少ない」と指摘していたが、この指摘は自分にも当てはまるだけに、印象に残った。そのようなかたちでの地道なネットワークづくりの努力は欠かすことができない。

群としてのマイクロ・レジデンス

東京大会のパンフレットに寄せた挨拶のなかで、セゾン文化財団常務理事の片山正夫は、「旅する画家や文人を自邸に滞在させた豪商、豪農、寺社の例を、われわれは歴史のなかに数多く見いだすことができます」★8と述べている。自らが生活し制作するスペースの一部を、滞在者のために開放することで、マイクロ・レジデンスは誰でもすぐに始めることができる。施設の維持にかける労力を可能な限り減らし、地元の協力者のネットワークを強めるとともに、施設間のグローバルなネットワーク化を促進して、滞在希望者に情報が届くようになれば、マイクロ・レジデンスは、行政主導のレジデンスを超える成果を生み出すことができるだろう。群としてのマイクロ・レジデンスは、交流と創造力を生む源泉となる可能性を持っている。

★1──レズ・アルティス総会2012東京大会「セッション3:マイクロ・レジデンス、アーティスト経営によるレジデンス」(東京ウィメンズプラザ、2012年10月26日、14:00-15:00)、URL=http://www.resartis2012tokyo.com/
★2──村田達彦「アーティスト・イン・レジデンス、そのネットワークの可能性」(『It’s only just begun:遊工房アートスペースのこの10年』、遊工房アートスペース、2012、42-43頁所収)
★3──マイクロレジデンス・ディレクターズ・トーク「マイクロレジデンス──なぜ今マイクロなのか、そのマクロな可能性を問う」(2012年10月30日、遊工房アートスペース)
★4──遊工房アートスペース「小さなアートの複合施設から大きな可能性を!──マイクロ・レジデンスの調査研究(中間報告)」(2012年6月)、URL=http://www.youkobo.co.jp/news/2012/07/post-19.html
★5──City Monkey。現在は存在しない。
★6──1999-2011年度、1カ月以上の滞在者は、30カ国・地域、71名にのぼる。出典=『S-AIR 2011年度活動活動記録集』(特定非営利活動法人S-AIR、2012、8頁)
★7──「日本のアーティスト・イン・レジデンス・ネットワーク会議」(東京ウィメンズプラザ会議室、2012年10月25日)
★8──「レズ・アルティス総会2012東京大会」パンフレット(4頁)

わしだ・めるろ
1973年生まれ。金沢21世紀美術館キュレーター。展覧会=「妹島和世+西沢立衛/SANAA」「人間は自由なんだから」「アトリエ・ワン:いきいきプロジェクトin金沢」「金沢アートプラットホーム2008」ほか。

[2013年4月]

関連論考:AIR_J>Article>
レズ・アルティス総会2012東京大会レビュー[2]光岡寿郎「社会的流動性の指標としてのAIR」
レズ・アルティス総会2012東京大会レビュー[3]津田道子「経験という貢献──『なぜレジデンスするのか?』」